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「え?何が?」 「元気ない感じ」 「ああ、そうか?」 「うん …さっきの私と先生の会話、聞いてたの?」 昇降口から外に向かって歩いていた彼を思い出し、多分彼はさっき保健室に来たんだと推測したんだ それで、私たちの会話を扉越しに聞いて、それで帰ってたところだったのかな、って 「まあね!そんな感じ!」 急に明るく振る舞い、おどけて返事した 下手くそだな 誤魔化すの 「ねえ、これから暇?私さあ、授業でわからないとこあって、勉強教えてよ!」 「…貸しだよ?」 「ん、別にいいよ!」 それから私たちは近くの公園に行った 公園を少し入ったところに、屋根があるテーブル付きのベンチ そこに相向かいで腰かけた 「この場合この単語を使うのが正しいかな 会話だと少し堅苦しい文になるからあんまこの英文法は使わないと思うけどね」 「へえ」 浩司は私がわからない問題をすらすら教えてくれる その真剣な眼差しは普段のチャラそうな見た目とは違った 進学校は嘘じゃない感じ 私が極端にバカなだけかもだけど 「おい、これ中学で習うような問題だぞ、大丈夫かい?」 そう言うと浩司はバカにしたように鼻で笑った 「うっさいなあ」 本当は勉強なんて嘘だ あんたがかわいそうだから、誘ってやったんだ 「ねえ、先生と付き合ってないの?」 「…まあね」 あっさり、返答 私は彼の顔を見た 「引いた?」 彼は今にも泣きそうな笑顔を浮かべていた 引かない、よ けど 好きなんだね、夏見先生のこと そんなに でも… 「夏見先生、既婚者じゃん 旦那さんと別れる気ないらしいし、見込みなくない?」 思ったことをストレートに言ったら彼は押し黙ってしまった あ、きつく言い過ぎたかも 慰めの言葉を考えていたら彼が話出した 「知ってるよ 知り合った時から結婚してたし、でも、好きになった気持ちって止めらんなくない? 俺は、夏見先生とどうこうなりたいわけじゃない …いや嘘だな …夏見先生と付き合いたいけど、相手にそんな気が最初からないのは知ってんだ だから、別に一緒にいれるだけでよかった 側で夏見先生を見れるだけで、話せるだけで 触れられるだけで」 ああ なんて報われない恋してるんだろう バカだな 「けど、さ わかってたんだけど 本人の口からはっきり言われると やっぱ落ちるな」 瞳を伏せて、目元に影を作る 哀しげで、寂し気な表情 それを見て私は嘘を吐いたんだ 小さな、優しい嘘 「別に…叶わなくても 思いが届かなくても 想い続けるのは自由じゃん 無理に忘れようとしなくてもいいんじゃない? 気持ちが落ち着くまでさ…」 そんな事、本当は微塵も思ってなかった だって、彼が先生と結ばれることがないのは明白だったから でも、彼のその表情が 余りにもかわいそうで 情けで言ってやっただけなんだ 「そっか」 彼はそれだけ言うと、虚無を見つめた こういう時 ほんとはなんて声をかけてあげたらいいのか 高校生でクソガキで、恋愛もたいしてしてこなかったし、彼氏もいなかったからわからなかった クチナシの花が香る公園で、高校生の私はそれ以上なんも言えずに ただただ憎らしい程に晴れ渡った初夏の陽気な空を、見上げた
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