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南口のロータリーの真ん中にある、木々が生い茂った空間 白熱灯と、小さなベンチがぽつんと置かれている ぼんやり夜空を見上げた 東の空にはベガとアルタイル 白鳥座のデネブ 南の空にはアンタレス 少し涼しい風が私の髪を靡かせた どういうつもりのキスだったんだろう てか、キス? いや、あれはキスだよね キスしたのに、あいつは何事もないようにしててさ それに 夏見先生のこと好きなのに 私に軽々しくキスしたり あ、でもそういうやつなのかも 保健室でも先生にキスするようなやつだったな、そういえば なんだ、やっぱチャラいやつじゃん 私は急にバカらしくなり足早に帰宅しようとしたら、その場所に見慣れた制服を着た二人組がやってきた 「中間テストマジやばかったわー」 「なー、今回山外れたから俺もヤバイわ…内申でなんとかしなきゃなあ」 カチっと音がして、タバコの臭いがこちらまで漂ってきた 浩司の学校の人達だ 「お前どこ狙ってんだっけ?」 「一応、東京の難関私大」 「そこかー、俺は国立だけど… 無理なら私立だなあ…」 随分難しい話をしてるな… 「なあ、中間テスト聞いた?学年一位佐伯だってよ」 「マジかー…またかよ…内部生強いな… あいつなんなんだろうな 学校ほぼ来てねーのにさあ、はーマジ真面目に勉強してる俺らがバカらしいぜ まっ!けど、浩司学校来てねーから内申と出席日数やばくて多分大学なんか行けねーよ」 「つか元保健の先生と付き合ってんだろ ヤバイよな」 「あー、年上かあ テクニックありそうじゃね?いーな」 「そっちかよ」 浩司… 学年一位なんだ… 頭いいのに 学校サボって チャラくて 女好きで 挨拶みたいなキスしてさ 唇を拭った 溜まってたんでしょ 男だしね 都合よかっただけだよ それから浩司の連絡を無視していた なんかムカつくから 「ねえ、秋! 校門にすごい格好いい人いるみたい!誰か待ってるから彼女かな?見に行かない?」 「やめなよそんな野次馬根性 恥ずかしい」 「えー!気になるじゃん!高校なんて色恋ごとしか面白いことないんだしさ!」 まあ、一理あるけど… 渋々友達に着いていくと、校門にいた男は手を挙げ、秋、と私の名前を呼んだ 近づいてきた見慣れた制服 「浩司」 え、嘘でしょ?あの子? イケメン、かっこいー そんな会話が微かに聞こえてきた なんかここじゃまずい 「浩司、ちょっと」 私は直ぐさま浩司をいつもの公園に連れ出した 「ちょっと、あんなことされると変な噂が立つから!」 「あんなこと?」 「校門で待ってるとかさ!」 「秋が連絡無視するからじゃん」 「なんで 別に恋人じゃないんだから連絡頻繁に取らなくてもいーでしょ」 「ふーん、秋はそう思ってるんだ」 「は?」 「俺は秋のこと、大切な友達だと思って見てるよ」 大切な友達? 「だから、大切な友達から連絡来なくなると寂しいもんだよ」 寂しい…? なんでそんなこと言うんだろう だって貴方には 「そんなこと言われたって 浩司には夏見先生がいるじゃん 好きな人いるんでしょ?」 「そうだけど…」 急に胸がチクリとした なんだ、ほらやっぱり 「けど、最近頻繁に連絡してんの秋くらいだよ」 えっ 「どーでもいい相手にこんな頻繁には連絡しないっしょ」 わからない 浩司が何を考えてるのか 「なんで? なんでそんなこと言うの?」 「なんで… なんでだろうなあ 秋にはさあ、俺のこととか、考えとか気持ちを素直に言えるんだよね」 夏見先生が言っていた言葉を思い出した 浩司が自分の事を話す人は珍しいって 「ねえ、じゃあ普段、というか、付き合ってきた彼女とかいたと思うけど、そーゆー子には自分のこととか、考えや気持ち言ってこなかったの?」 「あー、言ってないね 他の子に例えば俺の性癖を言ったりして引かれたらいやじゃん」 「何それ、こいつにだったらいいやって感じ?」 「いや、違うよ 秋の場合はさ、そう言う事に対して笑ったり、突っ込んでくれるじゃん だから素直に言えるんだよね 冗談やギャグが通じるというか 気を許せるんですよ 俺基本他人に自分のこと話さないようにしてるから」 「ふーん」 気のない返事をしたが、内心ちょっと嬉しい自分がいた 浩司は、私には心を開いてくれる、特別な存在なんだって それと共に 夏見先生と親しくしている浩司の姿を思い浮かべた 夏見先生とはどんな会話しているんだろうな、って 私と同じように心を開いた、特別な存在で 浩司の好きな人 特別だけど、私とは違う、特別な人… 大切な友達と 好きな人の境界線って どこにあるんだろうな 大切な友達と好きな人の違いって何…?
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