if

9/13
前へ
/68ページ
次へ
知らない間に見られていたんだ、と思ったら少し恥ずかしくなった でも… 「なんでそんな事浩司が気にするわけ?付き合ってもいないのに」 「別に…見かけたから言っただけ」 見かけたから言っただけって… 「私がどこで誰と何してようが、浩司にはどうでもいいじゃん」 そうだ 詮索されるような発言とか、カマをかけてきたりとか、なんで浩司にそんなことされたり、言われなきゃなんないんだ そしてそんなことを言われて、なんで私はこんなに動揺しなきゃなんないの…? 「どうでもよくないよ」 「え?」 どうでも、よくない…? どういう事なの? どういう意味なの? 私と浩司は付き合ってないのに 恋人じゃないのに 浩司にとって、私のプライベートな時間なんて、何やってるかなんて、どうでもいいはずでしょ…!? 「付き合ってないくせに、私が何してようが勝手じゃん! そんな言い方しないでよ!」 私を困らせないで、振り回さないで 気持ちを、掻き乱さないで 今これ以上浩司と一緒にいたら、話をし続けたら、身が持たなそうだった 「…ごめん、ちょっと今日は帰る」 ベンチから勢いよく立ち上がって、自宅に向かおうと一歩足を踏み出そうとした 「だったら…」 背後で浩司が何か言葉を言いかけるのと、私の視界が急に歪んだのは同時だった 「うわ!やばい…」 「え?」 「片頭痛になっちゃった…」 「え? 大丈夫?」 「大丈夫だけど、片頭痛になっちゃうと視界が悪くなって目が見えにくくなっちゃうんだよね… 片頭痛は人によってさまざまな症状がでるらしいけど、私の場合、片頭痛の兆候として、片目が突然チカチカとしだすんだ それが三十分くらい続いて治まるころに、激しい頭痛がやってくるの 頭痛になる前に薬を飲んで、少し寝れば起きたら治まってるんだけど…」 「そうなんだ」 取り敢えず今は、目のチカチカが収まって動けるようになるまではベンチで休んで、収まってきたら直ぐに帰宅しよう 「ちょっと目が見えにくくて動けないから、治るまでここで休んでいく 浩司は先帰ってていいよ、ごめんね」 「いや、調子悪いのに一人に出来ないし、危ないし…秋の家はどこ?送っていくよ」 「え!いや私の家はいい、いい!ちょっと休んでおけば大丈夫なやつだから!」 浩司に私の家まで送ってもらうとか、なんか恥ずかしい… 「いやいいよ、あー…、じゃあ俺ん家で休んで行く?そこまで歩ける?」 えっ… 「あ、いや、それも…」 浩司のご自宅も気まずいわ 「ったく、めんどくせえやつだな」 「うん…そうだね」 「薬は?」 「持ってない…」 「ええ…何で頭痛持ちなのに薬常備しとかないのよ 医者にもらった医薬品だけど、はい、ロキソニン、飲みな」 私は震える手でそれを受け取った 「ああ、待って、自販機で水買ってくるわ、ちょっと寝ときな」 そう言うと浩司は自販機で水を買って来てくれて、私は貰った薬を飲んだ 浩司は私の隣に座り、おいで、と言った 一瞬何だかわからなくて顔を見上げると、彼は私の肩を抱き寄せ自分の膝に誘導した ああ、膝枕か 「ゴメン…」 「いいよ、少し休みな」 それきり目を瞑り、何も考えず寝る事にした 少し寝たら頭痛は治るから、色々考えるのはそれからだ 誰かが、私の頭を優しく撫でている 心地よい…温もりがあって、落ち着く… 目を覚まし、気付いた時には、目の前で読書をしている人がいた あっあれ? 私は… あ、そうだ! 私さっき浩司に膝枕して貰って寝てたんだった 意識がはっきりしてきて、微かな記憶が蘇った わあ、何やってんだ私、恥ずかしい… ガバッと上体を起こし、座席一人分開けてベンチに座り直した 「あ、起きた?おはよ 体調は大丈夫?」 本を閉じて、何事もなかったように呑気に話しかけてきた 読んでいた本は太宰治の斜陽 私は頷いた 「はは、良かった さっきはすごい死にそうな顔して大丈夫かな、って結構心配したよ」 「ゴメン…」 「ああ、大丈夫 いやあー!にしてもすっごいいびきかいて寝てたね」 えっ!? 「嘘っ…!」 「うん、嘘」 はあ? 「ははは、怒らないでよ、ゴメンゴメン! まあ、調子良くなって良かったね」 「…ありがと」 「うん」
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加