193人が本棚に入れています
本棚に追加
(どこに行くの?……南雲)
ぐすんぐすんと鼻を鳴らしながら、私の手を引く彼の背中を見つめる。ずんずんと進んでいく彼は、黙ったまま。きっとまだ怒っている。
(当然よね……)
遅刻して、スマホも忘れて、挙句の果てに変な人に絡まれて。
たかが5分、されど5分。
5分違っていたら、きっと今頃二人で楽しく映画館でポップコーンでも食べていたはずなのに。
まったく違う結末を迎えたのは、まさにその『5分』のせいだった。
映画館の向きとは逆の、人通りが少ない通路。少し出っ張った柱の影まで来た時、南雲の足がピタリと止まった。
「な、南雲?」
こんな場所に来て何があるんだろう。恐る恐る声をかける。
もしかしたら、別れ話かもしれない。
そうだ。私のやらかし度合いにとうとう呆れ果てたんだ。付き合い出してまだ日も浅いし、別れるなら今のうちだと思われたのかも。
そのことが決定事項のように思われて、怖くなった。
もう一度ちゃんと謝ろう。謝って、次から気を付けるって言わなきゃ―――
「ごめんなさいっ」
「ごめんっ」
同時に発した言葉に固まった。
「なぐ、も?今なんて……」
「ごめん……」
(南雲が謝ってる………)
いつも私をからかってばかりで、どんなに言い合いをしても謝られたことなんてなかったのに。
目の前の彼は今、私に向かって頭を下げていた。
最初のコメントを投稿しよう!