193人が本棚に入れています
本棚に追加
南雲の逞しい腕は、私に安心と緊張を同時に連れてくる。
心臓の音、うるさいよ?
自分のと同じくらい大きな音を立てる心臓の音を聞いているうちに、段々と落ち着いてきて、いつのまにか涙は止んでいた。
(今度こそちゃんとお礼を言わないと)
顔を上げたら、いつもよりも少しだけ目線が近かった。
(あ、そうか……ヒールだった)
さっきまであんなに失敗だと思っていた7センチのヒールが、途端に正解だったように思えてくる。
「南雲?」
「ん?」
「助けてくれてありがとう」
「ああ」
「南雲、強いんだね」
「まあ、家が道場だしな」
「えぇっ!」
「知らなかったのか?」
「うん……」
「そっか」
「……なぐも?」
「ん?」
「……すごいカッコ良かった」
見上げながら小さくそう言うと、一瞬目を見開いた彼は私から顔を逸らす。
「……ったく………はぁ」
ブツブツと何か言っているけど良く聞こえない。
「南雲?」
「………そろそろ映画に行くか」
「え?もう始まっちゃってるんじゃ……」
「そうだった!ハチ!!」
「えっ、なに!?」
突然大きな声を上げた南雲にびっくりする。
「おまえ、間違えただろ!」
「え?」
「時間!1時間早いんだよ」
「ええーーっ!?うそ!!」
最初のコメントを投稿しよう!