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別れ
今日あんなが、ピューって音のするふわふわしたものをぼくにくれた。
あんなが投げて、ぼくが取ってくるんだ。
あんなに渡すと、また投げてくれる。
ぼくはこの遊びが大好き。
あんなが笑ってくれるから
今日はちょっぴりちがう遊びだった。
ピューって泣くふわふわを、あんなと取りあっこしたんだ。
ぼくはその時、懐かしくて暖かい気持ちを思い出したんだ。
ぼくは産まれたとき、兄弟がいた。
よくケンカごっこしたんだ。
「お前なんか噛み殺してやる」とか言いながらあま噛みしたりして、どっちかが疲れて降参したら負け。
あんなはぼくの兄弟だから、この時と同じように言って、あんなの手をあま噛みした。
あんなはとたんに大きな声をあげて、ママの方へ走っていった。
「ママ〰️。ころんに噛まれた〰️」
あんなのママはぼくを叱って、めいっぱいぼくの頭を叩いた。
ぼくは悲しかった。
なぜだかわからないよ。
ぼくはあんなと遊んだだけ。
頭はまだ痛いけど、あんながぼくのことを、まるで見えていないみたいに、ぼくの事を知らん顔してる事の方が……
…痛いよ……
次の日ぼくは、首に重いものをつけられていた。なんだろう?これ。
またあんなと遊びたい。
あのふわふわを加えて、あんなの帰りをじっと待った。
「ただいま~」
あんなの声だ!!
ぼくはふわふわを加えて、あんなと所へ走った。
「お前なんかに負けないぞ!
噛み殺してやるんだ!」
こんな風にしゃべる変な声が聞こえた。
今までに聞いたことのない、生きていない声。
ある日ぼくは、またあの狭くてゆらゆらするお部屋に入っていた。
お部屋が開くと、そこはお部屋じゃなかった。
ぼくは散歩が大好き。
また連れてきてくれたんだ!
こんな遠いところまで。
ぼくは嬉しくて駆け出した。
「あんな、遊ぼうよ!」
振り返ると………
………誰もいなかった………………
あんながきっと迎えに来てくれる。だからそれまで待つんだ。
ぼくは、あんながすぐにぼくを見つけられるように、なるべくその場を動かずに何日も過ごしていたんだ。
お腹すいたな……
ぼくは生きたものは食べられない。食べたことがないし、捕まえられない。
少し歩いて,水溜まりの水を飲んだり、葉っぱを食べたりしたけど、お腹が痛くなることもあった。
お水がない日もあった。少しあるいて探したりした。
でもすぐに戻るんだ。
あんなが迎えに来てくれるから。
あんなのお家に帰りたい。
もう歩けなくなった頃、人間が見えた気がした。
あんな?
今ぼくは,寒い色のお部屋の中にいる。人間は、あんなじゃなかったけど、少しのごはんとお水がもらえる。
僕のとなりお部屋にも、正面のお部屋にも、もっといっぱいのお部屋にも、ぼくと同じようにしている子がいる。
何日かすると、怯えた声がお部屋の中にこだまして、そしていなくなる。
ぼくはそれを待ってるんだ。まだあんなに会えていないのに、この寒い色のお部屋の中で、待つしかないんだ。
あんなに会いたい。
あんなのお家に帰りたい。
またあんなに頭を撫でてもらいたい。
抱き締めてほしい。
今日ぼくは、お部屋を出た。
別のお部屋に入る。
どうなるかは分かってる。
ぼくは死ぬんだ。あんなに会えないまま。
やっぱり怖くて、身体中が震えて止まらない。
だんだん息が苦しくなる。
あんなの思い出がいっぱいだよ。
…あんな……
ぼくは………
……君が大好き……………………
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