雨降らせ

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「命が惜しくば、即刻山を下りられよ。」  どすを利かせたそれは刃の様だったが瑠璃色の声を隠す事は出来なかった。 「お前は俺の命などとらん。」  ふた呼吸ばかり間を置いた後、雨降らせは再び口を開いた。 「なにゆえそう思うか。」 「お前は優しい女だ。」 「たわけ者が。わしをなんだと思うておる。」  今まで全く人に会わなかった筈は無い、会ったからこそ民話として残ったのだ。毎日毎日雨、雨、雨、雨、窒息しそうな湿気の中、張り付く着物を着てただ一人過ごす事はどれほど気の遠くなる事だろう。そして墨絵の世界に突如話し相手になりえそうな相手を見つけた時、どれほど心躍るだろうか。  彼女は話しかけたに違いない、妖怪に話しかけられて喜ぶ者はそう居なかっただろう、そしてもし物好きが応じたとして、一体どれ程この不快極まりない環境の中付き合ってやれただろうか。  二度と現れない友人に、見捨てられたと思った雨降らせはどんな思いを抱いただろうか。そしていつしか人に出会う事そのものを傷つく事に結びつけてしまったに違いない。俺にはそれがたやすく想像できた。
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