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「竜神は言った。『仰いだ先に青空がひらけ我が姿を見せたなら、それがそなたの役目が終わる時だ。』」
妖怪は息を呑み、へばりついた髪の間から俺を睨んでいたが、やがて体を揺らして大笑いした。
「どこで聞いたや知らぬが、世迷言よ。わしをなんと考えるか。常雨の主、雨降らせぞ。」
「もう良いのだ。」
「何が良いか。」
俺の言葉を意にも介さず雨降らせは狂気にも似た声で笑い続けた。
「あまりわしを怒らせるでないぞ爺。」
「もう良いのだ。見渡す限りの農地はもうない。時代は変わったのだ!」
妖怪の笑い声は雨音にのまれて消えた。
「何と…言ったのだ。」
俺はゆっくりと答えた。
「維新が起こって外国の技術が次々入ってきた。その結果大きな街には様々な工場が建つ様になりそこに人が集まる様になったからだ。わかるか。百姓をやるよりも安定していて実入りが良い仕事だ、この辺りの農家も人手や跡取りが取られ家業の規模を縮小したり止めざるを得なくなった。今や耕作放棄された土地だらけで、買い取られ住宅が建っていたりもしている。一面の農作地は無くなったのだ。」
「嘘だ。嘘を言うでない!」
「嘘ではない。」
「嘘だ!なればわしは、わしは何の為にここにおるのだ!わしは何の為にここにおるのだ!」
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