1 君の待つところへ

2/39
2209人が本棚に入れています
本棚に追加
/362ページ
『ご案内をいたします。 当機は、間もなく着陸体制に入りますので、 皆様シートベルトを今一度ご確認ください』 10月。 5年前、フランスに発った時期と同じ季節。 武者修行ともいえる向こうでの生活を終え、 この日、俺は日本行きの飛行機の中にいた。 窓の外、ひさしぶりに目にする東京の上空。 仕事で、5年の間に何度か帰国したけれど、 こんなに快晴なのは初めてかもしれないな。 「……」 やっと。 やっと、待ち望んだ今日を迎えられたという 思いと。 フランスでの実りある期間を過ごせた事への 感謝で、感慨深くなる。 あっという間だったな。 膨大な思い出の日々を頭の中で馳せながら。 飛行機の着陸に備えた。 16時。 駐車場。 「おかえりなさい直生」 見慣れた四駆の後部座席のドアを開けると、 運転席の大嶋さんが柔らかい笑みをこぼす。 肩で揃えたサラサラのストレートとグレーの スーツ、変わらないその姿にホッと和んだ。 「移動で疲れたでしょ。 トータル半日だものね」 「離陸してほとんどは寝てたから元気だよ」 後部座席の後ろにキャリーケースをしまい、 シートベルトを締める。 ハンドルを握った大嶋さんは「それじゃ出す わよ」と車を走らせた。 今日はこのまま帰宅だ。 ちなみに明日から3日間は社長の計らいで、 オフを与えられている。 まずはゆっくり休みなさいという事らしい。 「愛也ちゃんとは会う約束とかしてるの?」 携帯を操作していると。 大嶋さんがバックミラー越しに尋ねてきた。
/362ページ

最初のコメントを投稿しよう!