8 至福の贈り物

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「……」 愛也にとってはショックにかわりないのに。 なのに、そのことについて責めるどころか、 先回りして話しやすくしてくれた優しさに、 思わず、ジーンとする。 それにしてもなんてタフになったのだろう。 5年の間にそんな心構えを備えていたとは。 「指輪も結婚式もできないことがあっても、 いいの。 それでも直生がいいの」 愛也が生き生きとした表情で言葉を続ける。 「私は、こうして一緒に指輪を選べること、 すごく、嬉しいですよ。 それが、ショップなのかカタログなのかは、 重要じゃないというか。 できることを楽しめたらいいと思うんです」 そこに、強がりはない。 本心からそう言ってくれたのだと伝わって、 ますます感動を覚える。 「ああ、……ありがと」 と言い、さらさらの髪が流れる頭を撫でた。 感謝だ。 こんな、温かい気持ちで指輪を選べるのは、 本人の寛大のおかげだ。 「指輪、内側に二人のイニシャル入れる?」 「あっ、入れたいです」 「じゃあ注文する時にそうオーダーしよう」 「はい」 この笑顔を守れるようにベストを尽くそう。 カタログのページをめくりながらあらためて 思った。
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