8 至福の贈り物

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「愛也ちゃんは元気?」 春らしいオフホワイトのジャケット姿の母親 から笑顔で尋ねられる。 「ああ。 仕事も、頑張ってるよ」 「そう、なら良かった。 愛也ちゃんの好きなチョコレートの焼き菓子 買って用意してあるの。 また二人でうちに遊びに来てねって伝えてあ げてね」 「うん」 母親の言葉に微笑する。 両親と愛也が初めて対面したのはプロポーズ をした、5年前のこと。 将来を約束した相手と会ってもらいたくて。 フランスに発つ前に実現させておきたくて、 両親に、報告と共に頼み込んで場を設けた。 彼女がいることは随分前に知らせていたが、 その若さで婚約すると思わなかったようで、 二人揃って驚いていた。 あの時、若気の至りだとか言って反対せず、 自分達で決めたことならば頑張りなさいと、 背中を押してくれた両親には感謝している。 母親は、素直で礼儀正しい愛也を気に入り、 まるで、自身の娘みたいに可愛がっていて。 息子の俺をダシにして自宅に招こうとする、 仲良しぶりなのだった。 「そういえば新居探しはいつからするの?」 「え?」 「9月に入籍でしょう? もしも、結婚式より前に一緒に暮らすなら、 私から雅之に話しておすすめの物件紹介でき るわよ」
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