8 至福の贈り物

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そんな思いで答えると。 「ふふ、お父さんが予想していた通りだわ」 「え?」 「根が真面目だから直生はそういう風に言う だろうって話してたの。 昔から仕事が忙しくて学校行事は来ないし、 あまり家族の時間が持てない人だったけど。 ちゃんと見ていたのね」 「……」 それは、妻の目線ならではのエピソードで。 いつも仕事仕事だった父親の話を耳にして、 なんとなくジンとする。 同時に、職種は違うが自分の仕事への熱意は 父親譲りなのかもしれないと密かに思った。 「直生。 今度お父さんとお酒飲みに行ったらどう?」 「えっ」 ふいに、青天の霹靂のような提案をされて、 箸を持つ手が止まった。 どうしたんだろう突然。 「今の内だと思うのよ。 結婚して家族ができたらそちらが優先だし、 夜にお酒飲みに出かけることも控えるように なるわ。 親子水入らずで過ごせる内にどうかしら?」 「……」 一度は戸惑ったけれど。 父親と息子に仲良くなってもらいたいという 思いが、今の内だというたしかな現実感が、 俺の気持ちを動かして。 「ああ、……分かった」 穏やかな笑みを浮かべながらそう返事した。
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