9 HAPPY END

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柔らかくほほえむ直生に満面の笑みを返す。 やっと、やっとこの日を迎えられた感動で、 言葉にできないくらい胸がいっぱいになる。 だめだ。 幸せなシーンのはずなのに泣けてきちゃう。 本番の結婚式でもないのに目頭は熱くなり、 体中の水分が集中しそうになった時だった。 直生が、私の目線までかがんで顔を傾けて、 そっと唇を重ねてくる。 誓いの口づけは触れるだけの優しい行為で。 少し高い体温も馴染んだ感触も愛おしくて、 その広いスーツの背中に両手を添え応じる。 心から、……愛してる。 そんな想いを込めながら受け入れていたら、 ゆっくりと唇が離れる。 目が合うと端正な顔が破顔して小さく笑う。 そして、腰に左手が回って引き寄せられて、 腕の中へと収められた。 「あー、やっと俺のだ」 髪をアップにセットした私の肩に顔を乗せ、 ホッとしたように呟く。 実感のこもった本音からは切実さが伝わり、 きゅっ、と胸が軋んだ。 「……待たせてごめん」 「え?」 「プロポーズしてから5年も経ってるから」 そんな。 それについては本当に。 「気にしてないですよ。 それに、私はただ待たされたんじゃなくて、 自分の意思で待ったの。 直生が帰れる場所であり続けたかったから」
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