9 HAPPY END

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だから。 「謝るなんてしないで」 そう言うと口元を緩めながら背中を撫でる。 直生は、腕にじんわりと力を込め応えた後、 囁いた。 「愛也」 スッと、腕が解かれる。 見下ろす瞳は波一つない湖面みたいに穏やか だった。 「俺は、これからもモデルの仕事を続ける。 しばらくして一緒に暮らすことになっても、 今までのように様々な不自由があると思う」 この時、予感が走った。 これは、もしかしなくてもあらためてプロポ ーズしようとしている? 「そういう苦労とか経験をさせてしまう分、 それ以上に笑顔でいられるように尽くすよ。 きっと幸せにするから。 ずっと側にいて欲しい」 そして、私の左手をとって薬指に口づける。 「……」 もう抑えられなかった。 『あ』と気づいた時には視界が滲んでいて、 瞳から涙が伝っていく。 今夜は、ドレスアップして部屋に入ったら、 誕生日を祝うケーキと花束が用意されてて、 あまりの嬉しさから一度泣いちゃったのに。 まだ他にサプライズが残されていたなんて。 「はい。 よろしくお願いします」 右手で涙を拭った私がほほえんで告げると。 うっとりするような極上の微笑が近づいて、 力強く抱きしめられる。
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