9 HAPPY END

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幸せだ。 背中に抱きつきながら深い幸福感を味わう。 5年前、あの教会でプロポーズされた時は、 直生は、新たな環境に挑戦するその寸前で。 自分も、就職が決まって翌年に社会人になる という、大きな変化を控えていたタイミング だった。 だから、プロポーズももらった婚約指輪も、 会いたくても会えない時はもちろんのこと、 時差や仕事でなかなか電話で話せない時も、 私の心の支えとなった。 ただ今回は全く違って。 長い遠距離恋愛を経てお互い大人になって、 それぞれいろんな経験をしてきたからこそ、 5年前とはまた異なる感動がそこにあって。 直生が紡いでくれた言葉もことさら沁みる。 「これからは同じ名字だと思うと照れるな」 「ふふ。 ですね」 ものの数分前に夫婦になったばかりの二人。 何気ないやりとりですら空気を濃密にする。 「しばらくは小林って書いちゃいそうです」 笑って、そう返した時。 腕が解かれたと思うとすぐに唇が重なって。 『開けて』と舐めて促されそっと応えると、 柔らかな熱が入り込む。 「んん」 特別な夜に交わした口づけは熱くて甘くて。 細身なようで逞しい腕に腰を抱かれたまま、 私は何かにすがるようにスーツの袖を掴む。 「ふぁ」 すうっと首筋を撫でた手で耳朶を摘ままれ、 震える。 どこをどう触れたらどんな風に反応するか、 直生は、熟知している。 丁寧に、舌で何度も愛撫されてしまったら、 感じて、たまらなくて。 「だめ、……もう……」 お腹の下ではたしかな官能と潤いを帯びて、 ついに、全面降伏する。
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