9 HAPPY END

18/40
前へ
/362ページ
次へ
整った横顔が苦笑する。 それは、この2ヵ月秘密裏にしていた入籍の 事実が公表されたことで肩の荷が降りたかの ような、どこかホッとした表情にも見えて。 「しばらく気を張って過ごしてましたしね。 やっと解放されますね」 言葉を選びながら心境に寄り添ったつもりで 言うと。 「まあ、たしかにそれも間違ってないけど」 直生は、口元を緩めて。 さっき切ったきゅうりを添えながら続ける。 帰国後、一緒にキッチンに立つことが増え、 簡単なことや洗い物なんかはお手のものだ。 「公表されるまで外で指輪着けられなくて、 今まで残念だったから。 やっと、愛也とお揃いできるようになって、 嬉しい」 喜びを、露にした直生がふんわりほほえむ。 「……」 なんて、可愛いことを。 本人は、素直に本音を言っただけだけれど、 私には、これ以上ない甘い言葉に聞こえて、 思わず、きゅんとする。 同時に、その左手に嵌められた指輪を見て。 本当に、結婚したんだとしみじみと感じて、 温かく、愛おしい気持ちでいっぱいになる。 幸せだ。 直生が、当たり前のように隣にいてくれる。 フランスを行き来していたあの頃を思えば、 お揃いの指輪もこうしているのも夢みたい。 「愛也。 そんな、見つめられると触りたくなるから」 「あっ、ごめんなさい」 小さく笑った直生の反応にハッと気づいて、 再び調理に集中する私。
/362ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2292人が本棚に入れています
本棚に追加