9 HAPPY END

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「新居が決まったらこの部屋も引っ越しか」 ぽつり、とリビングを見渡して直生が呟く。 一人暮らしには十分過ぎる程のスペースに、 おしゃれなインテリア。 数えきれない時を過ごしてきた場所だから。 ここは、二人のたくさんの思い出があって、 私にとっても大切な空間の一つなのだった。 「寂しくなりますか?」 「まあ、ちょっとはね」 並んで、ゆったりとお茶を飲みながら話す。 お互い、長年住んだ場所を来春には離れる。 引っ越し当日はさらに感慨深いに違いない。 「愛也がここに通って料理作ってくれたり。 またね、って見送り合う生活ができるのも、 あと3ヵ月とかだと思うと名残惜しいかな」 静かに、そう言ってカップを台に置く直生。 そうか。 ついこれからのことに注目していたけれど。 相手と、久しぶりに会うわくわくだったり、 次に会える日を楽しみに仕事を頑張ったり、 離れるのは寂しいけれどその何倍も愛おしく 思いながら見送ったり。 恋人ならではの醍醐味は当たり前じゃない。 今のこの環境だからこそ味わえているのだ。 「いっぱい話しような。 二人で、ここで過ごせる間にたくさん思い出 作ろう」 いつの間にか背後に立った直生が腕を回し、 私を優しく抱きしめる。
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