9 HAPPY END

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ずるい。 入籍後の直生はますます糖度が高くなって、 しょっちゅうどきどきさせられているから。 「……。 じゃあ、お願いします」 赤らむ頬を恥ずかしく思いながら述べれば、 端正な顔はほほえんで。 それにつられるようにはにかんでみせると、 野菜の下ごしらえに取りかかったのだった。 8日後。 土曜日。 20時。 「これ、大事に使うね」 キーケースをかざした直生が微笑を浮かべ、 嬉しそうにそう答える。 「ふふ、気に入ってもらえて良かったです」 『似合いそう』と思い選んだキーケースは、 表面にブランドのロゴが入った黒いレザー。 テーブルをL字型に囲んで座っている私は、 その笑顔を見つめほっこりと喜びに浸った。 この日は直生の誕生日。 『愛也が作ってくれた料理を二人で食べて、 ゆっくり過ごしたいな』 という希望から場所は本人のマンションで。 ホールケーキは小さいサイズを買ってきて、 メインはこれもリクエストのハヤシライス、 ポーチドエッグをのせたシーザーサラダに、 野菜のコンソメスープ。 直生は、さらにそこにハンバーグもあって、 まさに盛りだくさんだ。 「全部、入りますか?」 「ああ、いけるいける。 今日の撮影巻きであんまり休憩とれなくて、 お腹すごく減ってるし」 そう言うと「いただきます」と手を合わせ、 ハンバーグを口に運ぶ。 いつも『美味しい』って食べてくれるから、 本当に作りがいがある。
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