9 HAPPY END

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だめだ、いってしまう。 底なしの愉悦に溺れながら確信したその時。 「ああ!ああああ……」 抗うことなどできない官能の波が押し寄せ、 羞恥も忘れ声をあげる。 両手が背中を引っ掻いた感覚はしたけれど、 それが、どこなのかはもう分からなかった。 気を失う寸前でどうにか意識を繋ぎ止めて、 乱れきった息を整える。 そうしていると前髪は指で優しく避けられ、 汗をかいたおでこには唇が押し当てられた。 温かくて気持ちよくて。 眠りに誘うような仕草に全身の力が抜けて、 かすかな安堵を覚える。 けれど。 「まだ、寝かせないよ。 奥さん」 そんな甘くはなかった。 愛する夫は意地悪な笑みと共に低く呟くと、 最奥をかき混ぜていく。 新居で、一緒に暮らすようになって気がかり なのは。 職業柄、不規則な生活を送る本人のリズムに 合わせることでも仕事との両立でもなくて、 えっちで意地悪な直生とのスキンシップなの かもと、蕩ける意識の中で思ったのだった。 その後。 新居は、2月中旬を過ぎた辺りで決まった。 直生と、探しに出かけられる機会は計3回。 事前に送ってもらった資料のマンション候補 以外に、担当者の方に案内され巡った結果、 都内の、とある賃貸マンションに決定した。 話し合って最終的にそちらを選んだ理由は、 交通機関や周囲の環境が便利だった以外に、 建物の景観だったり内装も良かったからだ。 リビングは木目調のフローリングに白壁で、 洗面所やトイレも同様に温かみのある空間。 なんか、ここ良いかも。 帰り際そう感じたのはここだけだったので、 話すと。 『自宅で過ごす時間は愛也のほうが多いだろ うから、気に入ったならそこにしよう』と、 直生は、笑顔で言って。 こんな感じですんなりと決まったのだった。
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