9 HAPPY END

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新居での生活をスタートして1ヵ月が過ぎた ある日。 カチャ。 「愛也、そろそろ出る」 朝食後、リビングで掃除機をかけていたら、 フードパーカーの上にジャケットを羽織った 直生がドアから現れる。 「はい」 私は電源をオフにしてそちらへ歩み寄ると、 一緒に玄関へ向かった。 黒いキャリーケースはすでにシューズボック スの前に運ばれている。 人気モデルの夫は結婚後も変わらず多忙で、 実は写真集の撮影で今日から1週間スペイン なのだ。 この後、下に迎えに来た車で空港に行って、 手続きを済ませて発つ。 「体調とかいろいろ気をつけてくださいね」 白いスニーカーを履く後ろ姿に声をかける。 食事は、大嶋さんや事務所のスタッフが準備 してくれるらしいから問題ないだろうけど、 内心はやっぱり心配で。 頭痛薬、風邪薬の他に胃薬も持たせたよね、 と頭の中で昨夜の荷作りシーンを振り返る。 「ああ、気をつけるよ」 直生が、キャリーケースを手に振り向いた。 仕事で何度か海外には滞在しているからか、 本人は、いつも通りだ。 「こうしてるとフランス行った時のこと思い 出すな」 「え?」 「あの時も同じように愛也に見送ってもらっ たから」 「ふふ、そうでしたね」 5年以上も前のシチュエーションと重なり、 なんだか感慨深くなる。 当時と違う点は入籍して夫婦になったこと、 そして、場所があのマンションではなくて、 ここになっていること。 比べれば大きな変化だ。
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