私はサッカーが嫌いだ

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弟の目はもう青ではないし、いつしか私より大きくなって部屋はすごく男臭くなってしまったけど、それでも私にとったら十分可愛い弟だ。 思春期真っただ中でもちゃんと挨拶もするし、私の質問にもしっかりと答えてくれる。確かに弟を養うために大学をやめることにはなったけど、それに関しては一切なんの恨みもない。私が勝手にしたことだ。 でも私は、サッカーは嫌いだ。 弟に対して一切恨みはないけれど、もしサッカーがなければ、私は全く違った人生を送っていたかもしれないと、そう思うことはある。 とても矛盾している考え方なのかもしれないけど、それでも私はいまだにサッカーをまともに見ることができない。 だから弟の試合は一度も見に行ったことがないし、応援はしているけど、これからだって見に行くつもりはない。 「それってどうなのよ?」 「海斗(カイト)君は 見に来てほしいんじゃないの?」 大学は途中でやめてしまったけど、大学時代の友達の友美(ゆみ)と明日香(あすか)とは、今でも仲良くしている。 当時二人は私が辞めない方法はないかと色々と調べてくれたりした。結局いい方法は見つからなかったけど、支えてくれる人がいるという事だけでも当時の私はずいぶん助けられた。 「海はシャイだから そんなこと思ってないよ、多分。」 「多分、でしょ?」 「新菜(ニイナ)が そう思ってるだけな気がするけど。」 確かに、私がそう思っているだけなのかもしれない。 さすがにこんな私も、中学の全国大会は見に行こうと思っていた。それでも見てしまえば海の好きなサッカーを私がもっと嫌いになってしまう気がして、なぜか行くことが出来なかった。 「海斗君、今年引退でしょ?」 「さすがにそれは行ってあげな、 これ以上行かないと引け目感じるかもよ?」 「そっかぁ…。」 この間、海を試合会場まで迎えに行った時、顧問の先生も今年のチームは仕上がりがいいと言っていた。海が高校を卒業してプロになるという事は、同時に私の役目が今年で終わるということを意味している。 今まで色々な理由を付けていかなかったけど、今年はさすがに見に行かなければと、友美と明日香に言われてやっと思い始めた自分がいた。
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