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体育館に置かれたピアノで、それぞれの組が時間を決めて一組ずつ練習することになって、先にいたのがシュンだった。小学校のころで止まったままの自分のヘタクソなピアノと違って、シュンのはなめらかで、力強くてそれだけでも聞き入ってしまうほどの魅力があったのに、突然、シュンは立ち上がり、合唱祭とは関係ない曲を引き始めた。
たぶん、ジャズか何かだったのだろう。夏のはじまりだったので、エアコンもあまり強く効いてない体育館で、シュンはみるみるうちに汗だくになって『弾く』より『叩く』ような演奏に、椎奈は、その時初めて、男子を見て『エロい』と思ったのだ。
時間が過ぎても声をかけることができずに、入り口のところで突っ立っていたままの椎奈を見つけると、
「……ごめん、気付かなくて」
それだけ言って、さっさと帰って行ってしまった。
それがシュンとの出会いだった。
シュンは椎奈のことなど覚えていなくて、それでも椎奈は、シュンの、細くて長いペンを持つ指先を盗み見ているだけで興奮を覚え、
「今、何ページって言った?」
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