1

2/7
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
 体育館に置かれたピアノで、それぞれの組が時間を決めて一組ずつ練習することになって、先にいたのがシュンだった。小学校のころで止まったままの自分のヘタクソなピアノと違って、シュンのはなめらかで、力強くてそれだけでも聞き入ってしまうほどの魅力があったのに、突然、シュンは立ち上がり、合唱祭とは関係ない曲を引き始めた。  たぶん、ジャズか何かだったのだろう。夏のはじまりだったので、エアコンもあまり強く効いてない体育館で、シュンはみるみるうちに汗だくになって『弾く』より『叩く』ような演奏に、椎奈は、その時初めて、男子を見て『エロい』と思ったのだ。  時間が過ぎても声をかけることができずに、入り口のところで突っ立っていたままの椎奈を見つけると、 「……ごめん、気付かなくて」 それだけ言って、さっさと帰って行ってしまった。  それがシュンとの出会いだった。  シュンは椎奈のことなど覚えていなくて、それでも椎奈は、シュンの、細くて長いペンを持つ指先を盗み見ているだけで興奮を覚え、 「今、何ページって言った?」
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!