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まだ誰も開封していない、この、生まれたてのかおりは特別だ。
お風呂上がりの、乾ききる直前の髪が夜風に揺れると、大好きなかおりが自分を包み込む。椎奈は、艶のある毛先を鼻の先に押し当ててそっと目を閉じる。至福のひと時だった。
SNSをひととおりチェックして、また素知らぬ顔してメッセージアプリに戻ってくる。それの繰り返し。空っぽのメッセージ欄と未読の文字。まるで間抜けな自分をあざ笑ってるみたい。
シュン、心が痛いよ……。
付き合いだしたばかりのころの恋愛なんて、大した努力なんかしなくても、誰もがみんなうまく出来るものだと、椎奈は思っていた。
同じ高校で、2年の時に初めて同じクラスになって、隣の席になって、そして気が付いた。去年の合唱祭の時に、ピアノを担当していた唯一の男子だった。
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