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 一晩考えて気付いた事がある。マキさんと臣が付き合ってくれた方が都合がいいじゃないか。臣が俺の知らない人と仲良さそうにしてたのがちょーっとだけ、もうほんっの少し、一ミリくらいショックだったってだけで、むしろ俺のことなんて忘れて女の人と付き合ってくれた方が断然良いに決まってる。それでいい。その方がいい。俺はバイト先に向かいながらそう結論づけていた。  土曜と日曜は地元から電車で三駅の、ちょっとした観光スポットにあるコンビニでバイトをしていた。片田舎ではあるけれど観光地ということもあり、この周辺だけは時給がいい。休みの日にわざわざ電車に揺られることに面倒くささも感じるが、地元で低賃金で働く事を考えればそのくらいは我慢できる。  いつも通り品出しをしながら適当に店番をしていると、後ろから聞き馴染みのある声が聞こえてきた。 「おー、やっぱりいた。ちゃんと働いてんのかぁ?」  声のする方へ振り返ると、ジャージにスポーツバッグの出で立ちで吉永がふんぞり返っていた。その隣にはマネージャーの樋口さんがいる。  マネージャーといえば野球やサッカー部が主流かと思うが、うちの学校は柔道部にもマネージャーがいる。樋口さんと吉永は同じ中学で、樋口さんも昔から柔道をやっていたらしい。膝の故障で今は辞めて、マネージャー業に専念していると吉永が言っていた。 「げぇ、来んなよ」 「客に向かって来んなよとはなんだよ」  ニカリと笑いながら吉永は答える。樋口さんも口に手を立ててふっと笑った。 「なんでいんの?」 「北高で練習試合、な」  吉永は樋口さんへ目配せする。 「北野高校ってこのあたりじゃ強豪校でしょ?練習試合申し込むのも苦労したのよ」  樋口さんは眉をハの字に下げため息をついた。 「まぁ、樋口の頑張りもあって大会前に闘えるって事だ」 「へぇ、頑張れよ」  当たり障りのない激励を向けると、吉永はおう!と力強く胸を叩いた。その仕草がゴリラのようで吹き出しそうになる。本人に言ったらめちゃくちゃ怒られそうなので頑張って耐えた。 「あら、あの人」  樋口さんの視線の先に目を向けると、そこに臣がいた。 「あの人って確か、役所のプリンスとかってみんなが騒いでる……。吉 永、知ってる?」 「知ってる。藤森の幼馴染なんだよ」  そうなの?と樋口さんは少し驚いた様子で俺を見た。 「そう、なんだ、実は」  ははは、と乾いた笑みが漏れる。 「隣にいるの彼女かしら。綺麗な人……」 「うぉっ!めっちゃタイプ!」  吉永が興奮した様子でそう言うと、樋口さんはすかさず吉永の脇腹を肘で突いた。  臣の隣にいる女性、あれは紛れもなくマキさんだ。俺は二人のやり取りも耳に入って来ないほど気が動転していた。何でだろう。これでいいはずなのに。 「あ!横道入っていったぞ!」 「ちょっと、あんまりジロジロ見るのやめなさいよ」 「お前が先に見つけたんじゃねぇか。でもよ、あの先って……」  吉永はそこで黙り込んだ。なぜか樋口さんも黙り込んだ。 「え、何?なんかあんの?」 「いや、あの横道入るとラブホ街までの近道に……ってぇ!!!」  言い終わるのを待たずして、樋口さんはまたも吉永の脇腹を小突いた。 「店の中でそんなこと堂々と言わないでよ!!!」  樋口さんは烈火の如く吉永の体にパンチを喰らわせているが、吉永の大きな体には全然効いていないようだった。 「なんで二人ともそんなこと知ってんの?」  俺としては素朴な疑問だった。だが二人が一気に赤面したのを見て、俺は吉永と樋口さんの重大な秘密に気が付いてしまったのだった。
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