12

1/1
630人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

12

「吉永も水くさいよな。普通親友には言うだろ」  バイトからの帰り道、俺はぶつくさと独り言を漏らしていた。部活内は恋愛禁止だから誰にも言えなかったんだ、と吉永と樋口さんに平謝りされた。まぁ、俺も吉永に隠してることあるし。親友にだって言えない悩みとかそりゃあるよな。 「誰にだって秘密の一つや二つ……」 「朔ちゃん!!」  わっ!と急に両肩を叩かれ、臣の顔がにゅっと視界に入ってくる。 「わぁ!なんだよ!驚かすなって!」  俺は全力疾走したあとみたいな心臓を抑えながら臣に怒鳴った。 「ごめーん。朔ちゃんが見えたから嬉しくなってつい……」  嬉しくなって、つい、ね。さっきまでデートしてたくせに、よく言う。さっきの二人の姿を思い出して、なんだかイライラしてくる。 「バイト帰り?」 「そうだよ。……臣は?デート帰り?」  俺は頬が引きつるのを感じながら臣の出方を待つ。 「デート?なにそれ」  まったく悪びれる様子もなく言ってのける。そうか、俺が気づいてないからってとぼけるつもりなんだな。 「臣って平気で嘘つくんだな」  ドクンドクンと、さっきとは違う種類の鼓動が打ち始める。臣の顔がどんどん強張っていく。そんな顔されたって俺はお前が信じられない。好きだって言ったのはなんだったんだ。  俺を好きだと言っておいて、女の人ともデートしてるんじゃないか。 「俺が好きなんて嘘なんだろ?からかって遊んでるんだ。本当は彼女がいるくせに」  全部嘘だったんだ。俺に向ける笑顔も、優しく触れる手の温もりも。俺を騙して遊んで、その様子を彼女に言ったりしていたのかもしれない。バカな童貞男の反応は、さぞかし良い笑い話になっただろう。 「彼女ってなんのこと?何言ってるの?」 「もういい。もうこれ以上関わりたくない。顔も見たくない。どっかいけよ」  いっそ正直に話してくれた方が良かった。なんだ、ばれっちゃったのか、とでも言ってくれれば、いつもみたいに俺が怒鳴って臣が謝って、それで終わりにできたのに。 「朔ちゃん、話を聞いて」  臣が俺の腕にしがみつく。この期に及んで何を言うつもりなんだよ。 「離せよ!」  腕を振り払った衝撃で臣の持っていた紙袋が中を舞った。地面に当たった瞬間、何かが割れたような乾いた音がした。 「待って、朔ちゃん!」  俺は走った。走って逃げた。もう何もかもめちゃくちゃだ。どんどん溢れてくる涙は引っ込みがつかなくなって、その夜眠りにつくまでの間、延々と流れ続けた。    臣と会わなくなって一か月近くが経つ。さすがに母ちゃんも気がついたらしく「あんた達ケンカでもしてるの?」と声を掛けてきたが無視した。母ちゃんには悪いけど、今は何も言いたくない。普通にしてるつもりだけど、吉永からも何かあったのか、と聞かれるし俺はそんなにひどい顔をしてるんだろうか。  結局臣は何がしたかったんだろう。どこまでが本当で嘘なのか全然わからない。俺を好きだと言ったのも嘘?じゃあ何であんなことしたんだろう。  下駄箱に上履きをしまっていると、トンと肩を叩かれた。 「おはよう、藤森くん」  佐伯さんだ。俺を見つけて走ってきたのか、肩で息をしている。 「藤森くん、最近休み時間はずっと寝てるし帰りはすぐ帰っちゃうしで、全然話しかけるタイミングがなくて」  佐伯さんに話しかけられるなんて、数週間前なら天にも昇る気持ちになっていただろうけど、今は何も感じない。 「放課後ちょっとお話しない?」  別に話なんてしたくなかったけれど、断って佐伯さんの顔が曇ったら後味が悪い。適当に話を合わせて、さっさと帰ろう。 「いいけど」 「じゃあ、終わったらここで待ち合わせね」  言い終わるやいなや、佐伯さんは近くに友達を見つけて、並んで歩いていった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!