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12
「吉永も水くさいよな。普通親友には言うだろ」
バイトからの帰り道、俺はぶつくさと独り言を漏らしていた。部活内は恋愛禁止だから誰にも言えなかったんだ、と吉永と樋口さんに平謝りされた。まぁ、俺も吉永に隠してることあるし。親友にだって言えない悩みとかそりゃあるよな。
「誰にだって秘密の一つや二つ……」
「朔ちゃん!!」
わっ!と急に両肩を叩かれ、臣の顔がにゅっと視界に入ってくる。
「わぁ!なんだよ!驚かすなって!」
俺は全力疾走したあとみたいな心臓を抑えながら臣に怒鳴った。
「ごめーん。朔ちゃんが見えたから嬉しくなってつい……」
嬉しくなって、つい、ね。さっきまでデートしてたくせに、よく言う。さっきの二人の姿を思い出して、なんだかイライラしてくる。
「バイト帰り?」
「そうだよ。……臣は?デート帰り?」
俺は頬が引きつるのを感じながら臣の出方を待つ。
「デート?なにそれ」
まったく悪びれる様子もなく言ってのける。そうか、俺が気づいてないからってとぼけるつもりなんだな。
「臣って平気で嘘つくんだな」
ドクンドクンと、さっきとは違う種類の鼓動が打ち始める。臣の顔がどんどん強張っていく。そんな顔されたって俺はお前が信じられない。好きだって言ったのはなんだったんだ。
俺を好きだと言っておいて、女の人ともデートしてるんじゃないか。
「俺が好きなんて嘘なんだろ?からかって遊んでるんだ。本当は彼女がいるくせに」
全部嘘だったんだ。俺に向ける笑顔も、優しく触れる手の温もりも。俺を騙して遊んで、その様子を彼女に言ったりしていたのかもしれない。バカな童貞男の反応は、さぞかし良い笑い話になっただろう。
「彼女ってなんのこと?何言ってるの?」
「もういい。もうこれ以上関わりたくない。顔も見たくない。どっかいけよ」
いっそ正直に話してくれた方が良かった。なんだ、ばれっちゃったのか、とでも言ってくれれば、いつもみたいに俺が怒鳴って臣が謝って、それで終わりにできたのに。
「朔ちゃん、話を聞いて」
臣が俺の腕にしがみつく。この期に及んで何を言うつもりなんだよ。
「離せよ!」
腕を振り払った衝撃で臣の持っていた紙袋が中を舞った。地面に当たった瞬間、何かが割れたような乾いた音がした。
「待って、朔ちゃん!」
俺は走った。走って逃げた。もう何もかもめちゃくちゃだ。どんどん溢れてくる涙は引っ込みがつかなくなって、その夜眠りにつくまでの間、延々と流れ続けた。
臣と会わなくなって一か月近くが経つ。さすがに母ちゃんも気がついたらしく「あんた達ケンカでもしてるの?」と声を掛けてきたが無視した。母ちゃんには悪いけど、今は何も言いたくない。普通にしてるつもりだけど、吉永からも何かあったのか、と聞かれるし俺はそんなにひどい顔をしてるんだろうか。
結局臣は何がしたかったんだろう。どこまでが本当で嘘なのか全然わからない。俺を好きだと言ったのも嘘?じゃあ何であんなことしたんだろう。
下駄箱に上履きをしまっていると、トンと肩を叩かれた。
「おはよう、藤森くん」
佐伯さんだ。俺を見つけて走ってきたのか、肩で息をしている。
「藤森くん、最近休み時間はずっと寝てるし帰りはすぐ帰っちゃうしで、全然話しかけるタイミングがなくて」
佐伯さんに話しかけられるなんて、数週間前なら天にも昇る気持ちになっていただろうけど、今は何も感じない。
「放課後ちょっとお話しない?」
別に話なんてしたくなかったけれど、断って佐伯さんの顔が曇ったら後味が悪い。適当に話を合わせて、さっさと帰ろう。
「いいけど」
「じゃあ、終わったらここで待ち合わせね」
言い終わるやいなや、佐伯さんは近くに友達を見つけて、並んで歩いていった。
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