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15
「朔ちゃんが間違えてくれたおかげで、ヤキモチ焼いて貰えたんだ」
臣はニマニマしながら側に寄ってきて言った。
「お、俺は別に……」
「僕のこと好きになった?」
ずいっと目の前に顔を近づける。いたずらっぽく臣は微笑む。
「ねぇ、なったでしょう?」
「……なっ」
俺が言い終わるのを前に、臣の唇と俺の唇ははゼロ距離になった。なってない、なんて言う隙も与えずに。
「ここ、道のど真ん中なんだけど」
「誰も見てないよ。だから朔ちゃんの顔が真っ赤なのも僕にしか見えてないよ」
俺は咄嗟に顔を隠す。
「そういうことをいちいち言うなよ!」
「だって可愛いんだもん」
臣は立ち上がって体についた砂や埃を払い終えると、俺の手を引いて立ち上がらせた。そしてその手を握ったまま臣は言った。
「大好きだよ、朔ちゃん」
嬉しそうな顔で微笑む臣の表情は、いつもの臣だった。だけど、もうそこにこだわらなくてもいいような気がする。まだ慣れないけど、目の前にいる臣はどれも本物の臣なんだ。
俺はポケットから財布を取り出し、しまっていた手紙を取り出した。
「これ、返す」
子供の頃に、臣に書いた手紙。書いた時の事は思い出せないけど、ここに書いてあることに間違いはない。
「臣が持ってて。俺は今も同じ気持ちだから」
「……うん」
「でも、その時の好き、とは違う……かも」
臣が顔を上げる。
「どういう意味?」
「だからぁ、そういう意味」
熱くなる頬を見られないように腕で隠したが、その腕は臣によってあっけなく掴まれ外されてしまう。
「ちゃんと、言って」
真剣な瞳が熱っぽく俺を見る。握られたままの腕に臣の体温を感じる。触れられるのは初めてじゃないのに、なんでこんなにドキドキするんだろう。気恥ずかしくて、見つめ返す事ができない。期待に満ちたその瞳に俺は応えたい。
「……すき」
返事の代わりにキスの応酬が俺を襲った。額やらほっぺやら首筋やらに遠慮なく唇をくっつけてくる。
「だから!道の真ん中ですんなっつの!」
「家ならいい?」
俺達の横を通り過ぎていく人達は、皆一様に見て見ぬふりで去っていく。大人の対応に感謝するしかない。
「あんましつこくすんなよ」
臣は期待と欲望が入り混じった顔で「早く帰ろう」と、俺の両手を引いた。
きっと静止しても無視されるんだろうな、と端から諦めつつ、俺は臣に手を引かれてアパートまでの道を歩いて行った。
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