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 次の日、俺は親友の吉永をファストフード店に誘った。あの後どうしたらいいのか一晩中悩んだけれど、答えは出ないまま。藁をも掴む思いで吉永に助けを求める事にした。 「で、藤森。相談ってのは?」  吉永は「期間限定イチゴパイ」の包みを開けながら言った。吉永のトレーにはパイの他にチーズバーガーが2つとポテトのLサイズ、そしてコーラが乗っている。そんなに食べてこのあと夕飯が入るのかと心配に思うかもしれないが、これが吉永の通常運転。おやつのようなものなのだ。さすが柔道部の主将候補なだけある。俺のやせっぽちの体とは違って、その体型を維持する為には必要な栄養源なのだろう。 「いやさ、ずっと仲良くしてた幼馴染がいるんだけど、まぁまぁ年上の」  「あの人だろ?役所のプリンス」  俺は思ってもみなかった先制パンチをくらって、一瞬言葉につまる。 「あ、や、そっちじゃなくて。お、女の人」 「幼馴染二人もいたんだ」  へぇ、と対して興味のなさそうな様子でイチゴパイを一口頬張る。  「そうなんだよ、ははは……」  本人が特定できないように性別や細かい部分はごまかそうと思っていたのに、吉永に臣の事を話していたことをすっかり忘れていた。俺は少しだけ緊張しながら話を進める。 「でさ、その人にその、昨日、襲われたっていうか」 「は!?何それ!?襲うってエロい意味で!?」  吉永が声高に叫んだ。声の大きさは体の大きさと比例するらしい。周りの客が一斉にこっちを見る。 「あんま大きい声だすなよ!」 「わりぃわりぃ、つい。で、何されたんだよ?」  吉永がイチゴパイの包みをくしゃりと丸めて先を促す。 「ベッドに押し倒されて、服脱がされそうになった」 「えぇぇっっ〜〜〜!!!?なにそれ、AVじゃん!」  俺は吉永の口を手で抑えながら周囲を見渡し、もう一度「静かにしてくれ」と頼んだ。 「お前まだ童貞だろ?ヤらせてもらえよ。そんなチャンス二度と巡って来ないぞ」 「やだよ。第一好きじゃないし」  男だし。 「バッカだなぁ〜。最初は経験者に手取り足取り教えてもらった方がいいに決まってんじゃねぇか」  吉永はまるで柔道技は熟練者に習えとでもいうかのように、きっぱりと言い切った。そういう問題じゃない。それに経験者かどうかもわからないし。臣って経験者なんだろうか……。新たな疑問が生まれたがそれは今は置いておくことにしよう。 「問題はそこじゃないんだって!俺、その人を本当の、姉ちゃんみたいに思ってたからショックっていうか」 「そういうもんか?単にお前が成長してタイプになったからってんじゃないの?」 「いや、十年前から好きって……」  ん?いや待てよ。好きとは言われてないな。十年見続けてるとは言ってたけど。 「十年って。藤森が七歳の時からってこと?年上なんだろ?危なくねーか、その人」  吉永が露骨に引いている。そうだよな。普通はそういう反応だよな。子供に恋愛感情を抱くなんてのは一般的におかしい。変態だ。その変態が気心しれた幼馴染だと言うんだから驚きだ。 「なんつーの、ロリコン?なんかな。だったらもうとっくに手出してそうだよなぁ」  そこは俺も謎なところだ。なぜか十八歳まで待つなんて言ってたし。いや、決して手を出して欲しいわけではないけど。 「つーかその人いくつ?大人が高校生に手出したらやばいんじゃなかったっけ。犯罪なんじゃないの」  吉永はフライドポテトを口に咥えながらスマホをいじり始める。  犯罪?そういうのって援助交際とかそういうのだけじゃないのか?例えばそれが普通の恋愛だとしてもアウトなんだろうか。 「あ、ほら、やっぱそうだよ。インコーてやつだ」  吉永は俺にスマホの画面を見せながらまた一口ポテトを齧った。 「い、淫行?それって手を出したら捕まるってこと?」 「詳しくはわかんねーけど、そうなんじゃないの。女子高生に手出した芸能人が捕まったりしてるのニュースで見たし」  捕まる……臣が?いやいやいや、気が早い。まだ何もされてないし、正確には手を舐められたくらいなものだし。これくらいじゃ捕まらないだろう。というより俺が突き出したりしなければセーフ……だよな? 「でもこういうのってさぁ、本人達の意思次第っていうか、真剣に付き合ってればいいんでしょ」  吉永はズズズと音を立ててドリンクをすすると、無責任に言い切った。 「十八歳まで待つつもりだったって、そういうことなのか」 「そんなこと言われたのかよ。それって自分が捕まりたくないからってことか?」 「……わかんね」 「まぁ当分は様子見てみたら?今頃むこうも反省してるかもだし」  吉永はちらりと俺の顔を見て元気出せよと肩を叩き、いつの間にか平らげていたハンバーガーの包みを丸めると、二個目のハンバーガーに手を伸ばした。  
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