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6
臣は握っていた俺の両手を片手で持ち上げ、そのまま俺の体を床へ押し倒した。両手を上に上げられているせいでボディがガラ空きだ。臣は空いている方の手で俺の体をまさぐり始めた。
「お、おい!やめろって!」
痛くしないから安心して?と耳元で息を吹きかけられ、思わずヒッと声を上げる。
いつのまにかシャツの中に侵入した手が、脇腹の辺りを何度も往復する。
「ちょ、ちょっと、はははは!くすぐったいっての!」
「朔ちゃんってほんと、くすぐり弱いよね」
臣は薄っすらと口元に笑みを浮かべながら俺の反応を見ている。そんな臣に腹が立っているのに、くすぐったさのせいで笑ってしまう。やめてくれ!と叫ぶのが精一杯だ。臣は俺をどうしたいのか、ちっとも検討がつかない。その気になれば臣を蹴飛ばすことだってできるのに、冗談なのか本気なのかがわからなくて行動に移せない。
「ほ、ほんとに、もうやめ!って!ひゃはははほ……はぁん!」
くすぐられていた脇腹を通り過ぎて、胸の頂点を臣の指が弾いた。
「あれ?気持ちいいの?ここスキ?」
「ち、ちが!たまたま!くすぐられてたからその勢いで……!ふぁ!あ、あ、ん、ちょっとォ!」
臣の指先が俺の乳首を執拗なまでに捏ねくりまわす。強弱をつけて、押したり引っ張ったり時々爪で引っ掻いたり。初めての感覚に頭がボーッとしてくる。
「気持ちいいならいいって教えて?」
「気持ちよくなんかな……、んんん」
「説得力ないな、そんな顔で言われても」
胸の尖端を弄られるのなんて初めてで、これが気持ちいいのかどうかなんてわからない。ぞわぞわとくすぐったいような感覚があるだけだ。これが気持ち良いってことなのか?
「朔ちゃん、右と左どっちが気持ちい?」
気がつけば頭の上で抑えつけられていた手は自由になっていて、臣の両手は俺の両乳首を弄り倒している。
「や……っ!もうやめろよ!」
「やめていいの?やめちゃうよ?」
言いながら臣が両方の乳首を力いっぱいつねった。
「あぁぁ!」
強い痛みの後にやってくるジンジンした鈍い痛みが、だんだんと快感に変わってきている気がする。臣は乳首を擦る手を止めない。
「こうするともっと気持ちいいかも」
そう言って臣はシャツの前ボタンを外し、ゆっくりと俺の胸に顔を近づけた。臣は見せつけるように舌を出すと、今度はその舌を使って乳首を擦するように舐め始めた。さっきとは全く違う感覚が伝わってきて、思わず体が跳ねる。
「すごい……朔ちゃん、ほんとうにここ弄るの初めて?それともオナニーの時触ってるの?」
俺は今されている事よりも、臣の口からオナニーなんて言葉が出てきた事に驚いていた。ずっとそっち方面は疎いと信じ込んでたから、直接的な言葉を使うはずがないと思ってた。
「ねぇ、朔ちゃんがいつもどうやってるのか見たいな。乳首弄りながらちんぽ扱いてるんだ?」
いやだ。こんなの臣じゃない。臣の仮面を被ったヘンタイヤローだ。臣はちんぽなんて言わない。俺の胸も触らない。ましてや舐めない!
内腿に伸びてきた手はもうすぐに股間に到達しそうだった。これ以上されるがままになっていたら絶対に考えたくもない事態になる。どうしようかと回らない頭で考えているうちに、臣の手がそっとファスナーの上をなぞった。
「もう、本当に、やめてくれ……」
喉の奥から絞り出した声は情けないくらいに震えていた。俺には泣いて懇願することが精一杯で、昨日のように力づくで体を引き離すことはできなかった。
臣はゆっくりと体を起こし俺をじっと見つめた。俺は熱くなり始めた目頭を腕に隠して、臣を視界から消した。
「さっきまで謝ってたじゃん……。全部嘘なのかよ」
「嘘じゃないよ」
「嘘じゃねぇか!本当に悪いと思ってんなら二度としねぇだろ!」
俺は涙を隠すのも忘れて臣に言葉を投げつける。それでも臣の表情は変わらない。何を考えているのかもわからない。感情がまるで見えない。
「驚かせたのは謝ったよ。でもしたことに対しては謝るつもりない」
なんだよそれ。意味がわからない。
「俺のこと好きなんだろ?なら、なんでこんな……むりやり……」
「本当に嫌なら殴るなり蹴るなりすればいい。嫌なら拒否してくれていいんだよ?」
そうじゃない。俺は臣を信用してたんだ。さっきだって謝ってくれたから信じて許したのに。それを逆手に取って好き放題したのは臣じゃないか。
「お前なんて、臣じゃない!」
我ながらダサい啖呵をきったと思う。でも俺の思いはこの言葉に集約されていると言ってもいい。
「僕は僕だよ」
「違う!臣はそんな下品な言葉使わないし、俺が嫌がることはしない!そんなに性格悪くない!」
呆れた表情にも見える顔で、臣は深いため息をついた。
「それならそれでいいよ。優しくてとろい倉持臣はもういない。今日からはこっちが本当の倉持臣だよ」
今までに見たことのない顔で臣がいう。本当に本人なんだろうか。どこかで入れ替わったんじゃないかとすら思える。
「今日はここまでにしておくけど、また明日も来るからね」
「こ、来なくていい!もう来るな!」
しっかり予習しておいてね、と作り物みたいな笑顔を浮かべて臣は部屋を出ていった。
来るなと言っても来るだろう。例え逃げたとしても、アイツはどこまででも追いかけてくるに違いない。絶望的なまでに逃げ道がない。
「どうすりゃいんだよ……」
落とした視線の先に、小さい頃に俺が描いたという臣への手紙が見えた。あの頃に戻れるなら戻りたい。戻ってやり直せたら。再び目頭が熱くなっていく。見つめた先の手紙の文字は次第にぼやけて見えなくなった。
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