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鈴の男気(すずのおとこぎ)
鈴の男気(すずのおとこぎ)1
制作:kaze to kumo club
-序章-
「なんで、あたいが……こんな目に合うんだよ……?」
背中にボーガンの矢を受けて、血を流している一匹のメス猫が……
西南高等学校の校門を抜けて入り込んだのは、
もう……夕方の6時を越えようとした頃だった。
大量の血液を流して、もうろうとする灰色ボス猫、鈴(すず)は学校の壁をつたうように、花壇のすき間を進んでいる。
足元がおぼつかず、今にも倒れそうな彼女は毒ずく。
「だから、人間は大嫌いなんだ! 遊びで……あたいら、猫を殺しやがる。
許せねえ〜。あのクソガキどもが……! ぜーてっー、許せねえぞ!」
哀れな彼女を狙い、いたぶり、串刺しにしようとしたのは……どこにでもいる塾帰りの中学生どもだった。
買ったばかりのボーガンをみんなの前で自慢したくて、無神経な悪魔たちは、適当な的を探していたのだ。
たまたま、そこに……エサをあさりに来ていた……勝気な猫、鈴(すず)が出くわしてしまった。
当然、鈴(すず)も負けてはいない。
始めは鋭敏な運動神経を生かして、ガキどもを翻弄させるぐらいだ。
飛んでくるボーガンの矢を紙一重で避けながら、親分格のクソガキの鼻先を
得意の鋭い爪で切り裂いてやったほどだった。
けれど……何分にも、多勢に無勢。
5人がかりで囲まれて、鈴は……ついに矢の一本を……背中に食らってしまったのだ。
そんな鈴の姿を見て、ここぞとばかりに笑い転げる小悪魔ども。信じられないひつこさで追って来る。鈴も必死だった。
1時間ほどの追跡劇後、何とか巻いた鈴は……ここまで逃げ伸びた。
だが、もはや体力の限界を超え、長く続く花壇の途中で力尽きてしまう。
「クソ〜、身体に力が入らねえ〜。めっ、目も……かすむ……。終わりかよ、
こんな所で……? 冴えねえ……最後だなあ〜」
苦しげな息を吐きながら、不運なメス猫は空を仰ぐ。
夕日が沈み、赤く染まった大気が……何気に鈴の最後を見届けようとしているみたいだった。
「ああ〜あ〜、クソみていな一生だったが……まあ〜良かったぜ。神様よ!」
ニヒルに微笑む鈴の顔は……猫にしておくには惜しいほどの……男気(おとこぎ)があった。
「さすがに……疲れたぜ。あばよ! あたいの……」
つぶやきながら目を閉じようしていた鈴は、天上に異様に物体を発見する。
大きな丸い影?……いや、尻?……そうだ! 人間の尻だ!
落ちて来る巨大な物体は……人間の……女の子の……尻……?
鈴は苦笑する。
「おいおい、冗談だろ? あたいの最後は……尻に潰されるのかよ? アホらしい……」
どうしようもない笑いが、鈴の表情を変えていた。
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