1人が本棚に入れています
本棚に追加
鈴の男気(すずのおとこぎ)2
制作:kaze to kumo club
ガバッと、その女の子は飛び起きた。
「あら? あたい……生きてんじゃん?」
鈴は驚いた。
天から降ってきたデカい尻に潰されて、確実に死んだと思ったからだ。
だか、身体に痛みはない。ただ……だるく重い感じがするだけだ。
鈴は現状を把握しようと両手を組みかけた。
そして、気がついた。
「なっ、何だ、これ!? あたいの手が……白くて……長げえーぞ!
何でだ……??」
見慣れたフサフサの毛がある肉球の両手が……
なぜか……人間の手になっている。
「嘘だろ……? 何だよ、これは……!?」
さすがの剛健猫、鈴も不安と恐怖のあまり……大声で叫んでいた。
「相川光さん。少し静かにしてくれる? ここ……一応、保健室なのよ!」
「はっい〜?」
唐突に話掛けられた人間型鈴は……目を点にして……声のした方を向いた。
燃えるような赤い髪と唇。
どう見ても、超が付く美人……? 誰、こいつ……?
鈴は白いシーツが眩しいベットの上で、そう思った。
「あなたはね。学校の屋上から転落したのよ。覚えてる……?」
おもむろにベットへ近づいて来る美人、時越美咲(ときごえみさ)、25歳は……気だるそうに……ビビる鈴のひたいに手をのせる。
ラベンダーのキツい香り。
耳たぶに飾られた大きな赤いイヤリングの球体がやけに輝く。光りものが好きなメス猫は……右手を伸ばそうとする。
が……赤い玉に触れる前に……誰かの声が……鈴の頭の中で響いた。
ーーダメよ、猫ちゃん。それはパタパタじゃないよ!ーー
「はっ?」
思わず声が出る鈴。赤い美女が耳元で囁く。
「大丈夫みたいね。運が良かったわね。打ち所が悪ければ……死んでるわよ、あなた……」
「…………??」
キョトンとしている人間型猫に向って、仁王立ちする時越は言う。
「今日はともかく、帰りなさい。担任の先生は承諾済みよ。カバンはあっち。
念のため、明日の朝、病院で見てもらいなさいよ。いいわね!」
ウインクして笑う赤い女は、まぎれもなく……いい女に見えた。 そして、鈴の意識が飛んだ。
数時間後、
言われるままに学校を出たであろう鈴は……なぜか……見慣れた感じのする
豪華な一軒家の前に立っていた。
しかし……どうやって、ここまで来たのか……?
全然、分からない??
「何で?」
また意識が飛んだ。
目が醒めると目の前に大きな鏡があり、人型鈴の全身を写し出していた。
「…………??」
栗毛の淡い金色の髪。
丸顔の頬がピンク色に染まり……愛らしいつぶら瞳が……少し紫がかっいる感じだ。
それは、見るからに……案外、可愛い系の高校生に見えた。
無言でガン見している鈴の背後から、あどけない甘い声が突然……話しかけて来た。
ーーどう? 解ったでしょう、猫ちゃん。あなたもいるの。私の中に!ーー
「はっ……? あんた、誰よ……!?」
今度は動ぜず、反論した鈴はフゥーと身構える。
一度聞いた敵の声は、決して忘れない。
それが……野良猫である鈴が唯一、自慢できる特技でもあった。
ーー私は、相川光(あいかわひかり)、17歳よ。
西南の二年生で……昨日、学校の屋上から落ちて……あなたとぶつかっちゃった……哀れな女の子なの!ーー
「何言ってんだよ、テメェー? あたいを舐めてんのかい?」
さらにフゥーと身構え、床に四つん這いになる姿は……まさに猫そのものだった。
ーーそんなに怒らないでよ、猫ちゃ……いや、猫さん! 本当に悪かったと思ってるんだからね……私……。あなたをお尻で……その……グチッと……しちゃった事!……本当、ごめん!!ーー
手を合わせて、謝る姿も……愛らしい。
「…………」
不意に、悪意のない気持ちが……鈴の心にも伝わって来た。
反省する者をいたぶる趣味はない。
そう思い鈴はイケメン女子らしく、敵意の構えを解いた。
「良く解らないが……要するに……あたいは、あんたの中で生きてる……って事かい?」
ーーそう! そうなの! 不思議な事だけど、猫さんの心と私の心が……合体したのね、きっと!?ーー
「なっ、なに……? 良く分かんね〜なあ……? ともかく、ゆっくり説明しろや、嬢ちゃん!」
かくして、勝気な猫と気弱な女の子は、夜がふけるのも忘れて、お互いの境遇と今の状況を……ガヤガヤと語り合う羽目になったのである。
2p
最初のコメントを投稿しよう!