鈴の男気

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鈴の男気(すずのおとこぎ)2 c1befc85-43fe-4c08-ad8c-b789718b5fce                        制作:kaze to kumo club  ガバッと、その女の子は飛び起きた。 「あら? あたい……生きてんじゃん?」  鈴は驚いた。 天から降ってきたデカい尻に潰されて、確実に死んだと思ったからだ。  だか、身体に痛みはない。ただ……だるく重い感じがするだけだ。 鈴は現状を把握しようと両手を組みかけた。 そして、気がついた。 「なっ、何だ、これ!? あたいの手が……白くて……長げえーぞ! 何でだ……??」  見慣れたフサフサの毛がある肉球の両手が…… なぜか……人間の手になっている。 「嘘だろ……? 何だよ、これは……!?」  さすがの剛健猫、鈴も不安と恐怖のあまり……大声で叫んでいた。 「相川光さん。少し静かにしてくれる? ここ……一応、保健室なのよ!」 「はっい〜?」  唐突に話掛けられた人間型鈴は……目を点にして……声のした方を向いた。 燃えるような赤い髪と唇。  どう見ても、超が付く美人……? 誰、こいつ……?  鈴は白いシーツが眩しいベットの上で、そう思った。 「あなたはね。学校の屋上から転落したのよ。覚えてる……?」  おもむろにベットへ近づいて来る美人、時越美咲(ときごえみさ)、25歳は……気だるそうに……ビビる鈴のひたいに手をのせる。  ラベンダーのキツい香り。 耳たぶに飾られた大きな赤いイヤリングの球体がやけに輝く。光りものが好きなメス猫は……右手を伸ばそうとする。  が……赤い玉に触れる前に……誰かの声が……鈴の頭の中で響いた。 ーーダメよ、猫ちゃん。それはパタパタじゃないよ!ーー 「はっ?」  思わず声が出る鈴。赤い美女が耳元で囁く。 「大丈夫みたいね。運が良かったわね。打ち所が悪ければ……死んでるわよ、あなた……」 「…………??」  キョトンとしている人間型猫に向って、仁王立ちする時越は言う。 「今日はともかく、帰りなさい。担任の先生は承諾済みよ。カバンはあっち。 念のため、明日の朝、病院で見てもらいなさいよ。いいわね!」  ウインクして笑う赤い女は、まぎれもなく……いい女に見えた。 そして、鈴の意識が飛んだ。  数時間後、 言われるままに学校を出たであろう鈴は……なぜか……見慣れた感じのする 豪華な一軒家の前に立っていた。  しかし……どうやって、ここまで来たのか……? 全然、分からない?? 「何で?」  また意識が飛んだ。   目が醒めると目の前に大きな鏡があり、人型鈴の全身を写し出していた。 「…………??」  栗毛の淡い金色の髪。 丸顔の頬がピンク色に染まり……愛らしいつぶら瞳が……少し紫がかっいる感じだ。  それは、見るからに……案外、可愛い系の高校生に見えた。  無言でガン見している鈴の背後から、あどけない甘い声が突然……話しかけて来た。 ーーどう? 解ったでしょう、猫ちゃん。あなたもいるの。私の中に!ーー 「はっ……? あんた、誰よ……!?」  今度は動ぜず、反論した鈴はフゥーと身構える。 一度聞いた敵の声は、決して忘れない。 それが……野良猫である鈴が唯一、自慢できる特技でもあった。 ーー私は、相川光(あいかわひかり)、17歳よ。  西南の二年生で……昨日、学校の屋上から落ちて……あなたとぶつかっちゃった……哀れな女の子なの!ーー 「何言ってんだよ、テメェー? あたいを舐めてんのかい?」  さらにフゥーと身構え、床に四つん這いになる姿は……まさに猫そのものだった。 ーーそんなに怒らないでよ、猫ちゃ……いや、猫さん! 本当に悪かったと思ってるんだからね……私……。あなたをお尻で……その……グチッと……しちゃった事!……本当、ごめん!!ーー  手を合わせて、謝る姿も……愛らしい。 「…………」   不意に、悪意のない気持ちが……鈴の心にも伝わって来た。 反省する者をいたぶる趣味はない。  そう思い鈴はイケメン女子らしく、敵意の構えを解いた。 「良く解らないが……要するに……あたいは、あんたの中で生きてる……って事かい?」 ーーそう! そうなの! 不思議な事だけど、猫さんの心と私の心が……合体したのね、きっと!?ーー 「なっ、なに……? 良く分かんね〜なあ……? ともかく、ゆっくり説明しろや、嬢ちゃん!」  かくして、勝気な猫と気弱な女の子は、夜がふけるのも忘れて、お互いの境遇と今の状況を……ガヤガヤと語り合う羽目になったのである。 2p
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