鈴の男気

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鈴の男気(すずのおとこぎ)5 862eea16-9871-40a3-9042-de08de7c307f                        制作:kaze to kumo club  西南の正門は長い坂道の上にあり、多くの学生たちを迎え入れていた。  ブツクサと独り言を言いながらも……人型灰色猫の鈴は、その正門へと…… ふらふらと向かっていた。  夏の到来の早さを思わせる……キツい日差しが、夜型の鈴をムダに苛立たせる。光の風邪のせいで、だるく、辛い身体を……無理矢理引きずり、フラつく意識を保とうと元ボス猫は……健気な努力していた。  そもそも負ける事が大嫌いな鈴は、昔から弱音を吐く事ができない性分だったのだ。 「ああ〜もう〜! だから人間は嫌いなんだよ! 勉強とか、常識とか……訳の分からん事ばかりに気を使ってよう! 一番大切な事が……テーンで解ってねえ! たっくよう〜」 ーー何言ってるの? 鈴ちゃん……? 私にも分かるように言ってよ!?ーー  心の中でふくれる光の表情は今にも泣きそうな顔で、かなり熱がある赤い頬をしていた。ふてる鈴はその顔を横目でチラ見しながら、少し悪い気にもなりつつあった。嫌な気持ちを振り払うみたいに鈴が叫ぶ。 「要するに……さあ。辛いのに無理して学校なんぞに行く事はねえーんだよ、光!  違うか……?」 ーーだって、今日は大事な英語のテストがあるのよ! また赤点取ったら、ママに怒られるもの……ーー  呆れた顔をして、立ち止まる鈴が言う。 「あのな〜、光! お前、死にたいのか? 熱もあんのに、そんな理由で動いてよう。あたいまで道ずれにされたんじゃー、割に合わねえーんだよ! このバカ!!」 ーーああ〜、ひどーい! 私だって好きで来てるんじゃないのよ、鈴ちゃん! 学校行くのは人間の義務なの。義務!!ーー 「ケッ、知った事かよ、そんな事! やめだ、辞めだ!! あたいは一抜けた……と……!?」 ーーええー!? まっ、待ってよ、鈴ちゃん! せっかく、ここまで来たのに……??ーー  泣きながら鈴にすがり付く光の腕が熱い。激しく咳き込み出し、潤んだ瞳を上目使いに向けてくる。鈴は鼻水だらけになりながらも、必死にしがみつく、光の意外な根性に圧倒されていた。 「……ちっい……。たっくーよう……」 見かねた鈴が手を差し出そうとした……その瞬間だった。 「おい、こら、あんた!? 何、一人でブツクサ言ってんのさ? 遅刻するわよ!」  不意の言動に驚いた鈴と、心の中の光が……声の方向を見上げた。  大柄の女がそこにいた。正門前に立ち、風紀委員の腕章を付けている事に光が気がつく。  人型鈴と内なる光は……いつの間にか……正門に到着していたのである。 「早くしなさいよ! 時期にチャイム鳴るわ。 正門を閉めるわよ!」  黄色い腕章の女は、体重100キロはありそうな巨体をこまめに動かしつつ、大きく横長い黒い鉄の正門を壁から引っ張り出そうとしていた。  光の表情が……見る見る青ざめて行く。 「なんだ、てめえは……?  ブタも学校に通うのかよ? おもしれえ!?」  突然、ケラケラと笑い出す鈴。さらに青くなる光は……倒れそう。  カチーン……と言う音がどこかで鳴った気がした。  あたりを見回す鈴は、ブタ女に尻を向ける。 「おい、お前! 今、なんて言ったの?」  凄むブタ女の目が睨む。 だが、鈴は気づきもしない。光が心配なのだ。 「なあ〜光。今、変な音がしなかったか?」  怒るブタの青筋が目立ち出す。  ガバッと、人間型鈴の右手をブタ女が掴んだ。 「ちょっと……あんたね〜。学年と名前は……?」  振り返る鈴が不思議そうに言う。 「んんー? ブタが……なんか用か……?」  ピキピキと……ブタ女の額にシワができる。内なる光は、両手を思わず口元につける。 「ふざけてんの、あなた……? マジに怒るわよ!」 「はあ? 何言ってんの? アホブタ!?」  半開きの目で、鈴が言った。 「……ヌヌヌヌヌヌ……、お・ま・え……」  真っ赤な炎みたいに怒り狂ったのブタ女が、今にも切りそうになる。 ハテな顔の鈴が、首を傾げて語る。 「なあ〜光。こいつも……人型ブタなのかなあ……?? けど……ひでーえ顔だぜ、まったく……」  ブチッと……何かが切れる音がした。  目を伏せる光。それに気がついた鈴が、伏せた光の顔をさらに除き込む。 「どうした、光? 辛いのか……?」と……小声でつぶやく鈴。  その背後には……巨大な怒れるブタが、仁王のように立ちはだかった。 「ふざけるな!」 「はい?」  突如な声に、再び振り向く鈴が、ブタに掴まれた右手を解く。その力に……巨体のバランスを崩したブタ女が……倒れる感じで……鈴の前によろめいた。  悲劇はその時……起こった。 「おっと、あぶねェ〜」と、解いた右手をブタ女に差し出そうとした鈴だったが……思わず、右手の拳を振りあげてしまう。  ゴン!……と鈍い音が響く。驚く内なる光の瞳。見ると……鈴の右こぶしが……見事なまでに……ブタ女の顔面を直撃していた。 「あら……??」  目パチクリとしたのは……鈴だけではなかった。  たまたま遅刻をまぬがれた数名の女子学生と、忙しさあまりに風紀委員に、正門の開閉を頼んだ体育の先生らまでが……その奇妙な瞬間を……しっかりと目撃していたのだ。  それはまるで……細くて、きゃしゃな少女が……力士のようなブタ女を……たった一発の右ストレートパンチで……倒したようにも……見えたのだった。  ドドーンと、地響きと共に……地面に顔面を鎮めるブタ女は……もはや……意識を失っている。その場に……緊張と……静寂が走る。 「なっ、なんだ……、こりゃ〜……??」  途方にくれる鈴の脳裏では、青ざめ過ぎて……アワワ……となっている光が……悲鳴のように言葉を叫んでいた。 ーーなっ、なんて事するの、鈴ちゃん! 相手が誰だか……解ってんの……?あなたは……?ーー 「はい?」と苦笑いする鈴。 ーーその人はね。柔道部の副主将よ! 毎年、県大会にも出てる……不敗無敵の柔道部の……花形選手の一人なのよ!!ーー 「…………?」  頭をひねる無知な灰色猫は、キョトーンとしている。 ーーメチャ怖い人なの、その人! なのに……殴り倒すなんて……。どっ、どうするのよ、これから……!?ーー 「…………??」  目が点になる……哀れなメス猫。 ーーああーもう! 逃げて、鈴ちゃん! 逃げるのよ、今すぐに……!!ーー 「いやだ! あたいは逃げない!!」  意地になる鈴が叫んだ。 ーーはあー?ーー  その場に座り込んで、両腕を組む鈴が……ふんぞりがえる。 「だって、あたい……悪くねえ〜もん! 全然、悪くねえよ、あたいはさあ。フン!」  どこまでも頑固で無知な……負けず嫌いの……元ボス猫の……鈴だった。  そして、どこからともなく……救急車のサイレンが聞こえてくる。  それは……これから始まるであろう……鈴と光の不思議で……デンジャラスな日々の……幕開けと……なったのである。  笑えるほどに……?? 序章終了! 次回、第1章へ……つづく……?! 5p
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