第三章 ~あなただけに愛されたくて~

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 リーブスへ降り立ったアイヴィーは、すぐさまディランの家を目指して駆け出した。  待ち合わせ場所は『ブラッディ・ムーン』だったが、あんな怖い目に遭ったばかりなので一刻も早く彼の元へ逃げ込みたかった。  何度も足がもつれそうになりながらも、アイヴィーは自身の体に鞭打ってひたすら走り続ける。  ディランの家の前にたどり着いた頃には、完全に息絶え絶えの状態だった。  全力疾走したせいで、肺が今にも潰れそうなぐらい痛かった。正直、こうして立っているのも辛い。  それでも何とか息を整えたのち、アイヴィーは玄関の扉をノックする。 (お願い、早く出て……!)  程なくして扉が開き、中からディランが姿を現す。  ディランの顔を見た瞬間、色々な感情が一気に込み上げてきて、アイヴィーは人目も憚らず彼に抱きつき泣いた。 「お、おい。どうしたんだよ、急に」  ディランがうろたえた様子で尋ねてくるも、アイヴィーは何も答えずひたすら声を上げて泣きじゃくった。 「何があったのか知らないが、とりあえず入りな」  さすがのディランも、慟哭するアイヴィーを無下に扱うようなことはせず、家の中に招き入れてくれる。  その後もしばらく泣いていたアイヴィーだったが、淹れてもらったカフェオレを飲んでようやく落ち着くことができた。  その様子を見たディランは、安心したようにため息をつく。 「そんな泣きはらした顔で、デートには行きたくないだろう? 代わりに甘いものでも買ってきてやるが、何か食いたいものはあるか?」  立ち上がろうとする彼のことを、アイヴィーはすかさず手首を掴んで引き留める。 「行かないで、お願い……」  一人になるのが怖くてたまらなかった。今だけはずっと、そばにいて寄り添ってほしい。  瞳を潤ませながら懇願するアイヴィーを見て、ディランは諦めたように「わかったよ」とつぶやく。  しばらくの間、二人は特に言葉を交わすこともなく、並んでソファーに座っていた。  ただこうしてディランと一緒にいるだけでも、今のアイヴィーには十分満足だった。  つい先程までは恐怖と不安でいっぱいだったのに、彼がそばにいてくれるだけで不思議と安心できる。他の男性と二人きりでは、きっとこんな風に平穏で幸せな気分にはなれないだろう。 (やっぱり私、おじ様でないと駄目なんだわ……)  ディランのぬくもりを直に感じていたくて、アイヴィーは体をぴったり寄せてもたれかかる。  一瞬、ディランが息を吞むような気配がしたが、何事もなかったよういたわるような手つきで髪を撫でてくれる。 「心配するな、どこにも行きやしない」  その言葉がとても嬉しくて、アイヴィーは胸をときめかせて微笑んだ。 (このままずっと、おじ様と一緒にいられたら……)  この恋が成就することを願ってそっと目を閉じる。 「それにしても、ずいぶんいい香りだな」 「え? 香り?」  ディランが突然、脈絡のないことを言い出したので、アイヴィーは一体何の話だろうかと首を傾げる。 「香水か何かつけてるんだろう? 香水はいつまでも鼻につくから嫌いなんだが、この香りは嗅いでいるとすごく気分が良くなってくる」  ディランはあるかなしかの笑みを浮かべ、酩酊したように深いため息をつく。  まさかと思って嗅いでみると、確かに甘い香りが漂ってくる。  だが、この香りの正体は香水ではない。淫魔が持つ媚薬効果のあるフェロモン、つまりアイヴィーの体から発せられたものだ。  ディランの言葉にときめいた際、無意識のうちに発してしまったに違いない。  何も知らずに香りを嗅いだディランは、媚薬効果の影響で気持ちよくなっているのだろう。 (もしかしたらこれは、チャンスかもしれないわ……!)  胸に秘めたこの想いを告白するなら今しかない。それに上手くいけば、ディランと体をつなげられる可能性もある。  アイヴィーは勇気を振り絞り、自身の想いを言葉にして伝える。 「あの、おじ様。私……初めて会ったあの日から、おじ様のことが好きです……」  その際、少しでもディランが自分になびくよう、豊満な胸を彼の体に押し付けるのも忘れなかった。 (おじ様からどんな言葉が返ってくるのかしら?)  アイヴィーの期待とは裏腹に、ディランは怪訝な表情を浮かべる。 「……なぜそこまで俺にこだわる?」 「え……?」  フェロモンの香りを嗅いだ者は、どんなに強靭な精神力を持っていようとたちまち虜になる筈だ。それなのに、ディランには全く効いている様子がない。  一体どうなっているのかと疑問を抱いていると、彼は雨の日の時と同じように冷たく突き放そうとしてくる。 「俺が前に言ったこと、忘れたわけじゃないよな? 嬢ちゃんが思っているような善良な人間じゃねぇと。エイダや他の奴からも、すでに俺が殺し屋だって聞いているんだろう?」 「そんなこと……関係ないわ……!」  これ以上、愛する男に拒絶されるのが耐えられず、アイヴィーは声を上げてディランの言葉を遮った。 「おじ様が何者でも、私には関係ないわ。だって……私は淫魔ですもの……」 「淫魔……?」  アイヴィーの言葉を聞いたディランは、話についていけず完全に困惑している様子である。 「ごめんなさい、ずっと黙っていて……。いきなり淫魔だと明かされて、すぐに受け入れられる筈ないわよね……」 「いや、嬢ちゃんが嘘を言っているとは思わないが……。それより、淫魔っていうのはその……セックスして精気を得る生き物なんだろう? 俺に近づいたのは、精気を得るためだったのか?」 「違うわ!」  アイヴィーはきっぱりと否定する。 「信じてもらえないかもしれないけど、私……ずっと運命の相手を探していたの。そんな時、おじ様に出会って一目で恋に落ちて……。身も心も、そして純潔も捧げてもいいと思ったのは、おじ様が初めてで――」 「ちょっと待て。嬢ちゃんは淫魔でありながら、一度もセックスしたことがないっていうのか?」 「はい……」 「何だよ、それ……」  ディランの反応はもっともだろう。目の前にいる女が淫魔だと知った上に、処女であるという普通ではあり得ない話を聞かされたのだから。  だが、そんな彼の心情に構うことなく、アイヴィーは媚を売るような眼差しを向ける。 「お願い、おじ様。どうか私を抱いて……」 「だから……何で俺なんだよ?」  アイヴィーに誘惑されて心が揺らいでいるようだが、それでもディランは頑なに抗おうとする。 「こんな年食ったおっさんよりも、若くていい男のほうが――」 「嫌よ! おじ様でないと駄目なの!」  自身の愛を受け入れてもらえないのが辛くて、アイヴィーは悲痛な面持ちで叫ぶ。  ディラン以外の男には抱かれたくない。何があってもこの気持ちだけは変わらなかった。 「おじ様がどれだけ拒もうと、私は絶対に諦めないわ! どうしても抱いて下さらないのなら――」  アイヴィーは言い終えるや否や、強引に彼の唇に口づけるのだった。  ディランはすかさず離れようとするが、アイヴィーは逃がすまいと唇を塞ぎ懸命に口腔を弄っていく。 「ん……んっ……」  慣れないながらも彼女は、たどたどしい動きで互いの舌を絡ませる。  口づけを繰り返すうちに気分が昂り、それに伴ってフェロモンの香りも濃厚になった。  ようやく効き目が出たのかディランは抵抗せず、されるがままにアイヴィーの舌を受け入れる。  夢中で口づけを繰り返しながら、アイヴィーはディランの体をソファーへ押し倒し、そのまま上に覆いかぶさる格好となる。  さすがのディランも、淫魔の媚薬には抗えなかったらしい。 「一体、俺に何をしたんだ……?」 「おじ様が嗅いだ甘い香り、私達淫魔が持つフェロモンの香りなの……。これには媚薬効果があって、少し嗅いだだけでも……そんな風になってしまって……」  たどたどしく説明するアイヴィーに、ディランは忌々しげに顔をしかめる。 「その効果、いつまで続くんだ……?」 「それはわからない。だけど早く効果を消したいなら、気持ちよくなって達するしかないわ……」 「嘘だろう……」  唖然とするディランをよそに、アイヴィーは早急にドレスや下着を脱ぎ、一糸まとわぬ姿となる。 「人を押し倒した挙句、自分から裸になるとか……本当に処女なのか……?」  ディランは視線を彷徨わせながら疑問を口にする。  正直、一番驚いていたのはアイヴィー自身だった。キスはおろか異性と肌を合わせたことのない自分が、ここまで大胆な行動を取れるとは思わなかったからだ。  淫魔としての本能からだろうが、それ以上にディランに抱かれたいという欲望が、アイヴィーを駆り立てたのかもしれない。 「私、おじ様だけにしか触れられたくないの。おじ様になら、どんないやらしいことをされても構わないわ」  アイヴィーはディランの手を取り、自身の豊満な乳房に触れさせた。 「はぁ……」  愛する男の掌に包まれている歓びから、アイヴィーは感極まった様子でため息をつく。 「おい……! 自分が何をやっているか、わかっているのか……!?」  ディランは目を剥いてうろたえるも、胸の膨らみから手を離そうとしない。Jカップの巨乳に触れられて、満更でもないということなのだろう。 「おじ様、このままおっぱいを揉んでみて……」  アイヴィーは恥ずかしさを堪えつつ、乳房に置かれたディランの手を深く押し込んだ。 「ねぇ、お願い……」  更に甘えるような声で懇願する。  少しの間、ディランはためらうような素振りを見せるが、やがて遠慮がちに揉みほぐしてくれた。 (おじ様が、私のおっぱいを揉んでくれている……!)  アイヴィーにねだられて、仕方なくやっているだけなのかもしれない。それでもこうして要求に応えてくれたのは嬉しかった。 (でも、これだけじゃ足りないわ……)  乳房だけでなく、乳首や秘められた部分も愛撫されて快楽を得たい。だが、それ以上に今はディランの体に触れたくてたまらなかった。 「……これで満足したか?」 「いえ、まだよ。今度はおじ様の体に触れさせて……」 「待て、そんなことされたら俺は――」  ディランの制止も聞かず、アイヴィーはシャツのボタンを外してはだけさせる。  服を着ている状態では痩せぎすに見えたが、程よく筋肉がついてとても均整の取れた体型をしていた。  格闘術にも長けているとのことなので、それなりに体を鍛えているのだろう。 (顔立ちだけでなく、体格も色っぽくて素敵……)  アイヴィーは恍惚の笑みを浮かべて、硬い胸板を優しく撫でさすった。 「ん……」  ディランの口からくぐもった官能的な呻きが漏れる。フェロモンの香りをもろに嗅いだ影響で、ほんの少し触れられただけで感じてしまうのだろう。  彼が愛撫に反応してくれるのがとても嬉しくて、今度は乳首を軽くつついてみる。 「く……っ」  ディランの体が大きく身震いすると同時に、肌が粟立っていくのが感じられた。 (おじ様も乳首を触られると気持ちいいのね)  アイヴィーはすっかり悦に浸り、か細い指で小さな乳首を刺激していく。  そのたびに、ディランは呻きとも喘ぎともつかない声を上げては、体をビクビクと震わせるのだった。  精悍で整った顔立ちは悩ましげに歪んでいる。その表情が妙に色気に溢れており、アイヴィーは思わず見惚れてしまう。  ――もっとおじ様を感じさせたい……。  淫らな欲望を胸に秘めて、胸板から腹筋、そして下腹部を指先でなぞっていく。 「頼むから……それ以上は……よせ……!」  アイヴィーがこれからしようとしていることを悟り、ディランはわずかに残った理性で思い留まらせようとする。 「おじ様に抱いてもらうまで、やめるつもりはないわ」  ふしだらな女だと呆れられているだろう。しかし、ここまできて引き下がりたくない。  アイヴィーはベルトのバックルを外し、おずおずと下着ごとズボンを引き下ろした。  乳首を触れられて感じたせいか、陰茎はすでに半勃ちになっていた。完全に隆起していないにも拘わらず、それはかなりの太さと長さを有している。  初めて見る大きさと形に圧倒されつつも、アイヴィーの目は男の象徴に釘付けとなった。 (何て猛々しくて魅力的なのかしら……!)  アイヴィーは恍惚の笑みを浮かべて、五本の指で硬い漲りを包み込んだ。 「あぁ……」  手の中で脈動するペニスを感じただけで、体の芯が一気に熱くなっていった。 「……ったく、処女のくせによく平気な顔で、男の性器に触れられるもんだな……」 「そ、それは――」  呆れたような眼差しを向けるディランとは対称に、アイヴィーは恥ずかしげに頬を赤らめて口ごもる。  まともに直視できるのも触れられるのも、ディランの体の一部だからだ。他の男の性器だったら、見ただけで卒倒してしまうに違いない。  その後もアイヴィーは立て続けに、竿や亀頭を撫でさすってはその感触を確かめる。  その触れ方が刺激となったらしく、肉茎は別の生き物のようにビクンと跳ね上がった。 「ひゃっ……!」  アイヴィーは一瞬、驚いて手を引っ込めるが、すぐにまた屹立したものに指を這わせていく。 「く……うっ……」  その直後、ディランが再び艶めいた低い声で喘いだ。  彼の表情はすっかり惚けている。獰猛な雄茎からは、透明な先走り液が滲み出ていた。  鈴口がいやらしくヒクつく様を見て、アイヴィーの中に歓びと愛しさが込み上げてくる。  同時に、ディランにもっと気持ちよくなってほしくて、肉棒を上下に扱いたり玉袋を軽く揉んだりして快感を与えていく。  そのたびにディランの下肢は小刻みに震え、男の象徴は更に硬さと熱さを増していった。  猛々しくそり返った巨根に見入っているうちに、情欲が疼きとなりアイヴィーの淫魔としての本能が呼び覚まされる。  手指で扱く以外にも、乳房で包み込んだり口で愛撫したりしてみたかった。しかし、今はこうして触れるだけで精一杯だ。 (でも、キスぐらいならできるかもしれないわ……)  アイヴィーは深呼吸してから目を閉じ、小さな唇を滾ったものに近づけていく。  だが、触れるか触れないかのところで、ディランに止められてしまう。 「いい加減にしろ。これだけ触れたんだから、もう気は済んだだろう?」 「どうして……? どうしてそんなに、私を拒絶するの……?」  アイヴィーは涙声で訊き返す。  胸が締めつけられそうなぐらい苦しくてたまらない。  悲しみのあまり俯いていると、ディランは煩わしそうに「人の話は最後まで聞けよ」と付け加えた。 「望み通り抱いてやるから、ひとまず俺の上から降りろ」 「本当に……抱いて下さるの……?」 「ここまで迫られたら、もう嫌だとは言えないだろう。それに、俺もこれ以上は持ちそうにないからな」 「おじ様、ありがとう……」  ようやくディランに抱いてもらえる喜びと、彼に暴挙に近い行為を働いてしまったことへの申し訳なさから、アイヴィーは双眸からポロポロと涙をこぼす。 「泣くなよ。まるで俺が泣かしたみたいじゃないか。まあ、半分そうかもしれないが……」  ディランは困ったように苦笑して、指先で彼女の頬を伝う涙を拭った。  その感触がとても優しく慈しみに溢れており、死神や悪魔と恐れられている殺し屋とは到底思えない。 「ほら、早く降りてくれ。これじゃあ、いつまで経っても起き上がれないだろう」  ディランは催促するようにアイヴィーのお尻を軽く叩く。 「あん」  彼女は慌てて立ち上がる。  ようやく自由になったディランは、体を起こすなり衣類を全て脱ぎ捨てた。 「寝室に行くぞ。窮屈なソファーよりも、ベッドの上で純潔を散らしたいだろう?」  無理矢理押し倒されたにも拘らず、ディランはアイヴィーを優先して考えてくれるのだった。  彼のそんな気遣いが嬉しくて、また涙が溢れそうになる。 「グズグズするな。こっちは今にもイキそうで辛いんだからよ」  ディランに手を引かれる形で、アイヴィーはそのまま寝室へと連れて行かれる。  もっとロマンティックな運ばれ方を期待していたが、早く抱きたくて仕方がないのだろう。  寝室へ入るなりアイヴィーはベッドに押し倒され、すぐさまディランが覆いかぶさってくる。  色欲の館にある自分の部屋で、シオンに同じことをされた時は嫌悪感しか湧いてこなかったのに、今は全く感じていないばかりか胸がときめいている。 「今の俺には余裕なんてねぇから、優しく抱いてやれなくても泣いたりするなよ?」 「相手がおじ様なら、全然怖くないわ」 「ついさっきまで泣いていたくせに、無理して強がるんじゃねぇよ」 「強がってなんかいないわ、本当のことよ。さっきも他の男性に手を掴まれただけで、怖くてたまらなかったんだから……」 「嬢ちゃんが泣いていた理由はそれか……」  色欲の館での恐怖を思い出してまた泣きそうになっていると、ディランが幼子をあやすように髪や頬を撫でてくれる。 「安心しろ。そいつに触れられた痕跡もその時に味わった恐怖も、俺が今から全部消してやる」  ディランはアイヴィーの手首を掴み、左右それぞれに優しく口づけていく。 「あ……」  彼の柔らかい唇が触れただけで、ずっとこびりついていた不快な痕跡が消えていくように感じられた。 (何だか、魔法のようなキスだわ……)  夢見心地になっているところへ、今度はたわわな胸の実りを揉まれる。 「はぁ……ん……」  アイヴィーは感じ入った様子で甘い声を漏らす。 「処女だというのに、なかなかいい反応を見せてくれるじゃないの」  先程までとは打って変わって、ディランの表情や声音には喜悦の色が滲み出ていた。  欲情に満ちた赤褐色の瞳を向けられただけで、淫靡な疼きが湧き上がってフェロモンの香りも再び漂い始める。  ディランは無意識のうちに、また嗅いでしまったのだろう。乳房を揉む手つきが淫らなものへと変化していく。 「それにしても、こんな美事な巨乳は初めてだよ。乳首もでかくてハリがあって、綺麗な色してやがるな」 「あんっ!」  いたいけな乳首を指先で摘まれた瞬間、甘い痺れが迸りアイヴィーはたまらず体を仰け反らせた。 「淫魔の乳首は感じやすいみたいだな。軽く触っただけで、もう硬くしこってきているぜ」  ディランは色づき始めた尖りを弄りながら、アイヴィーの耳元でからかうようにささやきかけてくる。 「ひゃ……ぅ……!」  やや掠れた低い声音や熱い吐息にも快感を覚え、彼女は得も言えぬ表情で全身を震わせた。  好きな男性からの愛撫は、想像していたよりもずっと気持ちいい。  恋愛小説を読んだ後によく、自身の手を運命の相手に例えて自慰行為を繰り返していたが、今感じている快楽はそれ以上のものである。  アイヴィーが喜悦の笑みを浮かべて愛撫に感じ入っていると、ディランが小さくため息をついて笑う気配があった。 「満足するにはまだ早いぜ。今から下もじっくりかわいがってやるからよ」  彼は舌なめずりしたのち、アイヴィーの足を左右に大きく開かせる。 「あぁ……」  誰にも見せたことのない淫処を晒され、アイヴィーは今までにない羞恥心に襲われる。  だが、ディランによって両足はしっかり押さえられているため、容易に閉じることができない。 「へぇ、一本も生えていないのか」  ディランは好奇心に満ちた眼差しで、あらわになった陰唇を食い入るように見つめてくる。 「や……」  見られているだけでも恥ずかしいのに、言葉にされると余計に耐え難かった。  どういうわけかアイヴィーには、陰部を覆い隠す茂みが全く生えていない。  姉達は全員、成長するにつれて恥毛が生え始めたのに、彼女だけは一向に生えてくる兆しがないのだ。 「あれだけ人の性器を見ておきながら、自分は見られたくないというのは理不尽だと思うが?」  ディランは邪な笑みを浮かべて恥裂をなぞる。 「あぁッ……!」  彼の指先が花唇に触れた瞬間、全身が総毛立つと同時に淫欲の蜜が溢れてくる。 「さっそく濡れてきたぜ。ほら、わかるか?」  ディランは蜜口に指を挿入させると、わざと水音を聞かせるようにゆっくり動かした。 「や……あぁ……ッ」  淫猥な水音よりも指の動きに感じてしまい、アイヴィーはしとどに濡らしながら喘ぐ。 「処女であっても、いやらしいことをされるとすぐに感じるみたいだな」 「お願いだから、言わないで……」 「いいや、何度でも言ってやるよ。嬢ちゃんは処女のくせに、俺にいやらしいことをされるのが好きな淫魔だってな」  ディランは言葉責めと巧みな愛撫でアイヴィーを翻弄していく。 「あっ、あぁっ……!」  アイヴィーはあえかな嬌声を上げて下肢を痙攣させる。  ディランの長い指に弄られている花唇は、ビクビクと震えて愛液を滴らせていた。 「はぁぁん!」  続いて敏感な肉芽を撫でられ、彼女は一際甲高い声で鳴いて全身を大きく仰け反らせた。 「もしかして、普段からよくここを自分で弄っているのか?」  ディランは陰核をじっと見つめながら軽くつつく。 「んんッ……! そ、そんなこと……ないわ……」  アイヴィーは首を横に振って否定するが、全くごまかしきれていないのは自分でもわかっていた。  案の定、ディランにはすでに気付かれているようである。 「嬢ちゃんの言葉が本当かどうか、じっくり弄って確かめてみるとするか」 「ひっ、あぁ――ッ!」  官能の芽を指の腹で転がされ、アイヴィーは頬を上気させて激しく身悶える。  足を閉じて指の動きを拒もうとするも、ディランはそれを許さず執拗に責め立てていく。 「あっ、んっ! おじ様……もう、これ以上……しないで……」  拒絶の言葉とは裏腹に鋭敏な突起は充血して膨らみ、姫洞は指より太いものを欲するように蠢いている。 「本当に嫌なら、ここまで濡れるほど感じないと思うが」  ディランは意地悪く告げると、可憐な尖りに淫蜜を塗りたくるように、指を何度も滑らせていく。 「あ、あ……ぅ」  最も感じる部分を巧妙に刺激され、アイヴィーは悩ましげに腰をくねらせる。 「私がさっき、おじ様に……いやらしいこと……したから、その仕返しを……してるの……?」 「よくわかっているじゃねぇか。嬢ちゃんに散々弄ばれたんだから、俺にだってそれぐらいする権利はあるだろう?」 「う……」  返す言葉が見つからず、アイヴィーはそのまま押し黙ってしまう。  ディランは勝ち誇ったように笑い、媚肉と雌核を容赦なくなぶり続けた。 「あぁ――ッ!」  嫌というほど愉悦を与えられ、下肢の中心が熱く疼いている。  だが、恐怖や嫌悪感は微塵もなく、むしろ充足感に似た感情で満たされていった。 (おじ様に触れられるの、すごく気持ちよくてたまらない……)  アイヴィーは頬を上気させて、ディランの愛撫に感じ入る。  その直後、彼女は全身をガクガクと震わせ、官能の滴りを大量に噴き出した。  ディランの前で痴態を晒してしまい、アイヴィーはいたまれない気分になる。 「すごいな、まるで射精並みの勢いだったぜ」 「おじ様ったら、恥ずかしいこと……言わないで……」 「淫魔のくせに純情ぶるんじゃねぇよ」 「はぁ……ぅ!」  追い打ちをかけるように淫芽を一撫でされ、アイヴィーは下肢を小刻みに痙攣させる。  絶頂に達した彼女にディランは休む暇を与えず、自らの屹立を膣口へ宛がった。  火傷しそうな熱い感触に、アイヴィーは思わず身震いする。 「望み通り、嬢ちゃんの純潔もらってやるよ」  それから彼は隘路への侵入を開始する。 「あぁッ!」  初めて男を受け入れる時の痛みが襲いかかり、アイヴィーは泣きながら苦悶の声を上げた。  痛いのは昔から大の苦手なので、余計に強く感じてしまうのかもしれない。 「やっぱり、もう少しほぐしてやるべきだったか?」 「大……丈夫……」  ディランに余裕がないのはフェロモンの香りを嗅がせた上、いやらしい愛撫で刺激してしまったせいだ。だから自分が我慢すればいいと、アイヴィーは気丈に振舞ってみせる。 「ったく、こんな時まで無理して強がりやがって……」  彼は呆れたように苦笑する。 「だって、やめてほしく……ないから……」 「今更やめるわけねぇだろう。初めてだから痛いだろうが、もう少し耐えてくれよ」 「はい、おじ様……」  アイヴィーがうなずくのを確認すると、ディランは再び剛直で肉襞を押し拡げる。 「っ……!」  相変わらず疼痛が続く中、アイヴィーはディランに強くしがみついてじっと耐える。  それで破瓜の痛みが消えることはなかったが、そうやって彼の熱や鼓動を感じていると安堵感が得られた。  それから数秒ののち、アイヴィーの唇に柔らかいものが触れる。ディランに口づけされたのだ。 「……全部、奥まで入ったぜ」  ディランはすぐに動かそうとせず、アイヴィーの緊張を解きほぐすように優しく触れてくる。 「よく耐えたな、いい子だ……」 「おじ様……」  いたわりの言葉に心を躍らせていると、ディランに再び唇を重ねられた。 「ん……んっ」  柔らかい舌によって口腔を蹂躙され、瞬く間に口蓋や歯茎を舐めとられていく。  淫靡な口づけに理性を奪われたところで、ディランの唇がそっと離れていった。 「そろそろ動いていいか?」  同意を求める口調ではあったが、彼は返事を待たずに腰を動かして抽送を開始する。 「あっ、あぁ……ん!」  処女を失ったばかりのアイヴィーにとって、太いもので中を穿たれる衝動はすさまじく、苦悶の表情でかぶりを振った。 「悪ぃな、初めてなのに手加減してやれなくて……。さっきも言ったように、今の俺には余裕なんてねぇから、優しくしてやるのは無理だ……」  ディランは突き上げるように己の猛りを動かしていく。 「やっ、あぁ……ッ! 駄目ッ! 体……壊れちゃう……!」  理性を奪われてしまいそうで怖いのに、淫蕩の血が流れる体は更なる愉悦を求めるように疼きを増していった。  逃げ腰になるアイヴィーの体を押さえ、ディランは肉茎を獰猛に穿ち続ける。  熱い切っ先が子宮口に当たるたびに、電流のような痺れが全身に迸り、隘路が何度も収縮した。  普段は気だるげな赤褐色の瞳が、欲望に飢えた獣の如くぎらついている。  情欲に満ちたその眼差しにも、アイヴィーはこの上ない魅力を感じてしまい、思わず陶然と見入っていた。 「嬢ちゃんに色っぽい目で見つめられたから、理性が完全に吹っ飛んじまったよ」  ディランは張り詰めた男根をせわしなく律動させていく。 「あ……あぁ!」  灼熱の楔を埋め込んだ媚肉は、歓喜に震えるように淫らに戦慄き、最奥まで蕩けそうなほど熟れている。  気付けば恐怖は完全に消え去っていた。今のアイヴィーの中にあるのは、ディランによって純潔を散らされた歓びと、絶え間なくもたらされる快感だった。 「気持ちよくてたまらないって顔だな……。もっと乱してやりたくなってきたぜ……」  ディランは荒い呼吸を繰り返しながら、一心不乱に欲望の滾りを打ちつけていく。 「あぁ――ッ!」  中を掻き乱す激しい律動に合わせるように、アイヴィーも自ら腰を動かして喜悦の声を上げる。  部屋には性器同士がぶつかる音と、アイヴィーの悩ましげな嬌声が響き渡る。それらの音はより一層、淫靡な雰囲気を濃厚にしていった。  それに伴って、フェロモンの香りもますます濃くなっていく。 「う……ッ!」  すると突然、ディランは大きく体を震わせて苦しげに喘ぐ。 「淫魔のフェロモンってのは、麻薬より質が悪いな……。もう……イッちまいそうだ……」  そして次の瞬間、男根は大きく脈動しながら欲望の飛沫を放出する。 「ああっ、あっ、あっ、あぁ――ッ!」  熱い迸りを子宮の奥に受け、アイヴィーは感じ入った様子で全身をガクガクと震わせた。 (おじ様に精液を注いでもらって、とても幸せだわ……)  下肢の中心は未だに熱く疼いており、膣口は快楽を欲するようにいやらしく脈打っている。  恋愛小説では、初夜を迎えた後のヒロインは恋人に優しく触れられ、何度も口づけをされる場面が描かれていた。  ――きっとディランも、同じように接してくれるに違いない。  アイヴィーは満ち足りた面持ちで、ディランが優しく触れてくれるのを待つ。  ところが彼は、アイヴィーの予想とは裏腹に、抽送を再開するのだった。 「ひっ!? あぁッ!」  射精したばかりだというのに、陰茎は少しも衰えておらず硬さを保ったままである。媚薬効果が切れていないのだろう。 「俺の欲望がまだ治まりそうにないからな。処女を失ったばかりの嬢ちゃんには悪いが、第二ラウンドに突入させてもらうぜ」 「そ、そんな……待って……。立て続けに……されたら……」 「さっき、俺がやめろと言っても聞かなかったのは、どこの誰だ?」  アイヴィーに拒否権などないと言わんばかりに、ディランは脅迫に近い口調でささやいてくる。  無理矢理押し倒したのは、紛れもなくアイヴィーのほうだ。そのことを責められても仕方がない。 「ごめん……なさい……」 「謝らなくていい、別に怒ってねぇから。その代わり、俺をここまで発情させた責任はしっかり取ってもらうからな」  ディランは一旦、膣口付近まで肉棒を引きずり出す。それから勢いをつけて淫襞を擦り上げていった。 「あっ、あぁん!」  頭頂部から爪先にかけて、快感が電流のように駆け抜けていく。  官能の余韻が再び燃え上がり、アイヴィーの理性は瞬時に劣情に飲み込まれていった。
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