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気付けば夜明けに近い時刻になっていた。その間、二人はずっとベッドの上で淫靡な情交を繰り広げていたのだ。
ディランのすぐ隣では、アイヴィーが穏やかな表情で寝息を立てている。
その無防備な姿を見ているだけで、欲望が鎌首をもたげ今すぐ襲いたいという衝動が込み上げてくる。
幾度となく絶頂に達したにも拘わらず、まだアイヴィーを抱きたいと望んでいる自分自身に、ディランは呆れを通り越して情けないと感じていた。
――この美しく愛らしい淫魔の虜になってしまったのか、それとも己のふしだらな欲情を満たしたいだけなのか……。
媚薬効果があるという、フェロモンの香りを嗅いだ影響も多少はあるかもしれない。
しかしそれ以上に、淫魔だと知ってもアイヴィーを他の誰にも渡したくないという強い想いが、ディランの心を占めていたのだ。
他の男に触れられて怖かったと聞かされた瞬間、顔も知らないその相手に怒りと殺意が芽生えた。詳細は敢えて聞かなったが、アイヴィーが犯されそうになったのだと容易に想像がつく。
他の奴に盗られる前にアイヴィーを自分のものにしてしまおう――そうしてディランは己の欲望に従い、乙女だった彼女を何度も抱いて熱い精を注ぎ込んだ。
夜明け近くになるまでアイヴィーを散々抱いたというのに、彼女に求められた時はなぜ頑なに拒んだのか、自分自身でもよくわからない。
アイヴィーと交わったことは少しも後悔していない。それなのに、どういうわけかまた心が揺らいでいる。
(俺は一体、何を恐れているんだ……?)
アイヴィーに愛されることで、自分の中の何かが変わることか。先日、エイダが言っていたように、自身の生い立ちを彼女に知られることか。
いずれにせよ、アイヴィーとはまた少し距離を置いたほうがいいかもしれない。このままベッドで一緒に過ごしていたら、本当に襲ってしまいそうで怖い。
寝心地は決して良くないが、互いのためにもソファーで眠るとしよう。
ディランがベッドから出ようとしたその時、アイヴィーは引き止めるように手首を掴んでくる。
「おじ様……行かないで……」
身動きしたせいで起こしてしまったかと思ったが、よく見ると彼女はまだ眠ったままだった。
今の言葉はこちらに語りかけたものではなく、ただの寝言だったのだろう。
夢の中にいても求めてくるその姿が愛くるしく、ディランは結局ベッドに身を横たえることにした。
「そんな風に求められたら、離れられなくなっちまうじゃねぇか……」
ピンクブラウンの髪を優しく撫でてやる。するとアイヴィーは嬉しそうに微笑んだ。
「……いいぜ。お前を俺のものにしてやるよ、アイヴィー」
ディランが誓いを立てるようにつぶやいた時だった。
一瞬、右手の甲が淡く光って、紋様のようなものが浮かんだ気がする。
すぐに確認してみたものの、何の異変もなかった。何度も絶頂に達したせいで、疲れて幻覚でも見たに違いない。
ディランはアイヴィーを抱き寄せて、そのまま深い眠りに就いた。
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