第三章 ~あなただけに愛されたくて~

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 気付けば夜明けに近い時刻になっていた。その間、二人はずっとベッドの上で淫靡な情交を繰り広げていたのだ。  ディランのすぐ隣では、アイヴィーが穏やかな表情で寝息を立てている。  その無防備な姿を見ているだけで、欲望が鎌首をもたげ今すぐ襲いたいという衝動が込み上げてくる。  幾度となく絶頂に達したにも拘わらず、まだアイヴィーを抱きたいと望んでいる自分自身に、ディランは呆れを通り越して情けないと感じていた。  ――この美しく愛らしい淫魔の虜になってしまったのか、それとも己のふしだらな欲情を満たしたいだけなのか……。  媚薬効果があるという、フェロモンの香りを嗅いだ影響も多少はあるかもしれない。  しかしそれ以上に、淫魔だと知ってもアイヴィーを他の誰にも渡したくないという強い想いが、ディランの心を占めていたのだ。  他の男に触れられて怖かったと聞かされた瞬間、顔も知らないその相手に怒りと殺意が芽生えた。詳細は敢えて聞かなったが、アイヴィーが犯されそうになったのだと容易に想像がつく。  他の奴に盗られる前にアイヴィーを自分のものにしてしまおう――そうしてディランは己の欲望に従い、乙女だった彼女を何度も抱いて熱い精を注ぎ込んだ。  夜明け近くになるまでアイヴィーを散々抱いたというのに、彼女に求められた時はなぜ頑なに拒んだのか、自分自身でもよくわからない。  アイヴィーと交わったことは少しも後悔していない。それなのに、どういうわけかまた心が揺らいでいる。 (俺は一体、何を恐れているんだ……?)  アイヴィーに愛されることで、自分の中の何かが変わることか。先日、エイダが言っていたように、自身の生い立ちを彼女に知られることか。  いずれにせよ、アイヴィーとはまた少し距離を置いたほうがいいかもしれない。このままベッドで一緒に過ごしていたら、本当に襲ってしまいそうで怖い。  寝心地は決して良くないが、互いのためにもソファーで眠るとしよう。  ディランがベッドから出ようとしたその時、アイヴィーは引き止めるように手首を掴んでくる。 「おじ様……行かないで……」  身動きしたせいで起こしてしまったかと思ったが、よく見ると彼女はまだ眠ったままだった。  今の言葉はこちらに語りかけたものではなく、ただの寝言だったのだろう。  夢の中にいても求めてくるその姿が愛くるしく、ディランは結局ベッドに身を横たえることにした。 「そんな風に求められたら、離れられなくなっちまうじゃねぇか……」  ピンクブラウンの髪を優しく撫でてやる。するとアイヴィーは嬉しそうに微笑んだ。 「……いいぜ。お前を俺のものにしてやるよ、アイヴィー」  ディランが誓いを立てるようにつぶやいた時だった。  一瞬、右手の甲が淡く光って、紋様のようなものが浮かんだ気がする。  すぐに確認してみたものの、何の異変もなかった。何度も絶頂に達したせいで、疲れて幻覚でも見たに違いない。  ディランはアイヴィーを抱き寄せて、そのまま深い眠りに就いた。
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