第一章 ~淫魔の初恋~

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第一章 ~淫魔の初恋~

 魔界の空は今日も禍々しい黒雲で覆い尽くされていた。  闇の眷属や魔族、あるいは悪魔と呼ばれる者達が住まう魔界――その一角には、大淫魔サキュバスの血を引く美しい娘達が暮らす、『色欲の館』が存在する。  彼女達は魔界中から訪れる客を相手に、毎日のように情交に耽っては己の欲求を満たしているのだ。  淫魔にとって男女の営みは、精気を得るために必要不可欠であり、日常生活の一部といっても過言ではない。  色欲の館には今日もまた、濃厚なフェロモンの香りと嬌声に満ち溢れ、淫靡な雰囲気が漂っている。  そんな中、末娘のアイヴィーだけは部屋にこもって本を読んでいた。  肩の高さまで伸ばしたピンクブラウンの髪は、緩くウェーブがかけられている。  顔立ちは愛らしさの中に色気も含まれており、見る者を惹きつけるのに十分な要素を持っていた。雪のように白い肌は瑞々しく、見るからに弾力がありそうだ。  中でも、アイヴィーの魅力を最も引き立たせているのは、その美しい体型であろう。  華奢な腰は見事にくびれており、豊満な乳房は今にもドレスから溢れてしまいそうなほど大きい。また、臀部は満月のように綺麗な丸い形をしている。  その完璧な美貌と肢体であれば、多くの男を魅了するのは間違いない。事実、色欲の館を訪れる客の中には、アイヴィーを抱くことを望む者も少なからずいた。  それでも彼女は誰とも会わず、部屋で読書することを選んだ。 「はぁ……。何て素敵なのかしら……」  ピンクトパーズを思わせる瞳を煌かせて、アイヴィーは感極まった様子でつぶやく。  彼女が夢中で読んでいるのは、男の裸が載っている写真集でもなければ淫らなテクニックを磨くための指南書でもない。人間界の若い女性の間で流行っている、男女のラブロマンスを描いた小説だ。  最初はただの興味本位で読み始めたのだが、気付けばすっかりハマってしまい、今では一日三冊読むのが日課となっている。  そしてアイヴィーはいつしか、自分も同じように素敵な恋をしてみたいという願望を抱くようになっていた。 (私の元にもいつか必ず、心から愛し合える運命の人が現れる筈よ……!)  恋愛に対する強い憧れから、アイヴィーはずっと純潔を守り続けている。当然、異性の誰一人とも肌を合わせたことなどない。  全てはまだ見ぬ運命の相手に身も心も捧げるためだ。  淫魔でありながら未だ処女のままのアイヴィーを、姉をはじめとする周囲の者は異端者扱いしている。中には、恋愛など人間が想い描く幻想に過ぎないと、馬鹿にして笑う者もいた。  自身の考えが理解されないことはある程度覚悟していたが、だからといって全く傷つかなかったわけではない。それでもアイヴィーは、一度たりとも考えを改めようとはしなかった。  周囲からどう思われようと、運命の相手が現れるまで処女を捧げるつもりはないし、ましてや誰かにこの体を触れさせるつもりもない。  その日一冊目の本を読み終えたところで、アイヴィーは夢見心地のまま甘いため息をつく。  今読んだ小説も、とても素晴らしい恋物語だった。そんなアイヴィーの気持ちを代弁するように、胸が未だに高鳴っている。  いつまでも感動の余韻に浸っていると、急に体の芯が熱くなって下腹部がジンと疼いた。  アイヴィーが読む小説には男女の性行為の描写がある。ほんの少しでもその場面を思い出すと、必ず体が反応してしまうのだ。  処女とはいえ淫魔であることに変わりはないので、淫らな妄想をすると性欲が湧いてくるのは自然のことである。  アイヴィーは体の飢えを抑えるべく、ドレスの上から胸の先端を弄り始める。その際、自分が運命の相手に愛撫されているのだとイメージするのを忘れなかった。 「あぁ……」  たったそれだけで感度が上がり、乳首はみるみるうちに硬くしこっていく。  小説の中のヒロインは皆、素敵な男性に体を愛でられて喘いでいた。好きになった相手に触れられたら、きっと彼女達のように気持ちよく感じることだろう。  続いて直に触ってみようと、アイヴィーはドレスを脱いで裸に近い姿になる。 「乳首がもうこんなに……」  ピンク色の乳輪は膨らみを増しており、その中心にある乳首はいやらしく尖っていた。  好きな男性に見られていることを想像しながら、アイヴィーは再び愛撫を始めるのだった。 「は……あぁ……っ」  全身に痺れるような快楽が迸り、胸の突起は熟れたチェリーのように濃く色づいていく。 (この状態で乳首を吸われたり舐められたりしたら……)  考えただけで腎兪の辺りがじわじわと熱を帯びて、乳首を弄る手を止められなくなるのだった。  下半身の疼きが次第に激しくなり、足の間がすでに淫蜜で濡れそぼっているのがわかった。  ――もっと気持ちよくなりたい……。  理性を失いつつあったアイヴィーは、酩酊したように愛らしい顔を蕩けさせた状態で、足を開いて秘められた部分をあらわにする。  部屋には自分以外に誰もいない筈なのに、なぜか見られているような気がして、より一層淫らな欲望を掻き立てられていくのだった。  アイヴィーはおずおずと手を伸ばし、濡れた媚芯に触れてみる。 「あ……はぁ……ぅ」  まるで愛撫を望んでいたかのように下肢全体が妖しくざわつき、蜜壷から歓喜の涙がどっと溢れ出てくる。  その愛液を塗りつけるように、上端にある雌芽を指先でそっと撫でた。 「あぁ……ん……」  鋭敏な尖りに触れた瞬間、先程よりも強い快感が体を駆け抜けて、アイヴィーは悩ましげに喘いだ。  姉達も同じかどうかわからないが、アイヴィーが昔から一番感じる部分は陰核だった。そのため自慰行為をする際はいつも、この小さな突起をじっくり弄るのが癖になっている。 (私の運命の人も、こうやって愛でてくれるのかしら?)  淫らな言葉をささやかれながら、恥裂から顔を覗かせている秘核を何度も擦られる場面を思い浮かべ、アイヴィーは恍惚の眼差しで自慰を続けていく。 「あっ、あ――っ」  妄想の影響もあるのだろう。雌核は更に膨らみを増していき、陰唇までもが淫らにヒクつき始める。 (まだ誰とも肌を合わせていないのに、こんなにも淫らに感じてしまうなんて……)  アイヴィーは自身の痴女っぷりに呆れてしまうが、愉悦から抜け出したくなくてやめることができずにいた。  快感の絶頂が訪れる寸でのところで、部屋の外から誰かが扉をノックしてきた。 「えっと……ちょっと待って……!」  アイヴィーは乱れた姿を急いで直そうとするが、あたふたしているうちに扉を開けられてしまう。 「ア、アニエス……お姉様……」  部屋に入ってきたのは十番目の姉、アニエスだった。  彼女もアイヴィーに勝るとも劣らないほど美しく、はち切れんばかりの美乳と均整の取れた肢体の持ち主である。  また、アイヴィーの完全な理解者というわけではないが、少なくとも他の姉達のように馬鹿にして笑うようなことはしない。 「あら、ごめんね。せっかくのお愉しみの時間を邪魔しちゃったみたいね」  アニエスは艶然と微笑みながら、半裸のアイヴィーをまじまじと見つめる。 「お姉様……あんまり……見ないで……」  いくら相手が姉と言えど、こんなあられもない姿を見られるのは恥ずかしい。 「私達姉妹なんだから、そんなに恥ずかしがることないでしょう」  アニエスはクスッと笑うと、アイヴィーの隣にそっと腰を下ろした。その際、豊満な乳房が艶めかしく揺れ動き、アイヴィーは思わず見惚れてしまう。 「それにしてもアイヴィーったら、また一段と胸が大きくなったんじゃない? ざっと見た感じ、Jカップはありそうだわ」  アニエスはその大きさを確かめるように、アイヴィーのたわわな膨らみを揉み始めた。 「あ、あぁ……っ! 駄目……っ!」  つい先程まで、自慰行為によって快楽を得ていた体は、ほんの少しの刺激だけで瞬く間に感じてしまう。 「まあ、すっかり感じる体になったのね。これで男と交われば、あなたも一人前の淫魔よ」 「ええ、そうね……」  アニエスが褒めてくれているのはわかるが、早く手を離してほしいという気持ちが大きく、アイヴィーは素直に喜ぶことができなかった。 「ところで、これから人間界へ行こうと思っているのだけど、あなたも一緒にどう? もしかしたら、今日こそあなたの運命の相手が見つかるかもしれないわよ」  アニエスは魔界の男に飽きると、時折こっそり人間界へボーイハントに行き、その都度こうしてアイヴィーを誘ってくれるのである。 「見つかるといいけど……」  一刻も早く運命の相手を見つけたくて、毎回欠かさず姉に同行しているのだが、今日はあまり気乗りしなかった。  もちろん諦めたわけではないが、なかなか良い相手に巡り会えなくて少し落ち込んでいたところだった。  ここ最近、部屋にこもって読書に耽っていたのも、半分は現実逃避のためである。  消極的なアイヴィーを見てじれったく思ったようで、アニエスは語気を強めて叱咤する。 「もう、しっかりしなさいよ。運命の相手と結ばれて、みんなを見返してやるんでしょう?」 「アニエスお姉様……」  よもや姉から鼓舞されるとは思わず、アイヴィーは驚いたように目を丸くする。 「私も完全には、あなたの考えに賛同しているわけじゃないわ。でも、あなたの決意が本物だって知ってるから、簡単に諦めてほしくないの」  アニエスの真摯な眼差しから、彼女の言葉が嘘ではなく本心であることが伝わってくる。  他の姉も口では頑張れと言ってくれるが、本気で応援している者など誰一人としていない。そのことも、アイヴィーが落ち込む要因の一つになっていた。 (アニエスお姉様がこう言ってくれてるんだもの。いつまでも塞ぎ込んでいるわけにはいかないわ……!)  心が挫けそうになったことは一度や二度ではない。それでも諦めずにいられたのは、アニエスが支えてくれたおかげである。彼女の厚意を無駄にしないためにも、悩んでばかりいないで前に進まなければ。 「……アニエスお姉様。私、今日も一緒に行くわ。このまま馬鹿にされっぱなしでいるのは、もう御免だもの」  アニエスの言葉に元気づけられたアイヴィーは、吹っ切れたように明るい表情を浮かべてみせる。  姉の言う通り、今日こそ運命の相手が見つかるかもしれない。たとえ見つからなかったとしても、行動することに意味があるのだ。  気力を取り戻したアイヴィーを見て、アニエスは安心したように微笑む。 「そうそう、その意気よ。それじゃあ、まずは身なりをきちんとしないとね」 「あ……」  アニエスに指摘されたところで、アイヴィーは自分がふしだらな姿のままでいたことを思い出す。 「今日は私が腕によりをかけて、あなたを綺麗にコーディネートしてあげる」 「ありがとう、アニエスお姉様」  出かける時の服装はいつも自分で選んでいるが、たまには姉に任せてみるのもいいだろう。  軽い気持ちでアニエスを頼ったアイヴィーだが、美しく飾り立てるのに一時間以上も費やすことになるとは予想だにしていなかった。
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