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アイヴィーが倒れる寸前で、ディランはその華奢な体を腕に抱きとめた。
「嬢ちゃん。おい、嬢ちゃん。しっかりしろ」
声をかけても返事はなく、規則正しい呼吸の音だけが聞こえてくる。どうやら完全に泥酔してしまったようだ。
「ディラン、アイヴィーの様子は!?」
エイダは血相を変えて駆け寄ってくる。
気付けば他の客達も、ひどく心配した様子でこちらを見ていた。
「酔いつぶれて寝ちまっただけだ」
「そう、ならいいんだけど……」
言葉とは裏腹に、エイダの表情は硬いままである。
「それにしてもこの子、まだ酒には慣れてないみたいだね……。ノンアルのカクテルを出しておくべきだったかな……」
「お前のせいじゃねぇよ。彼女、ろくにメニューを見てなかったし、何より最初にちゃんと確認しなかった俺が悪い」
この店にはノンアルのカクテルはもちろん、ジュースや清涼飲料も置いてある。そのことをアイヴィーに教えてやるべきだったと、ディランは自身の配慮不足を悔やんだ。
カクテルは酒が苦手でも比較的飲みやすいが、だからといってジュース感覚で飲むと急に酔いが回るので注意が必要である。しかもこのフルーツカクテルは、アルコール度数がビールよりも高い。
恐らくアイヴィーも、甘くて美味しいからと油断して飲んだのだろう。
「とりあえず、嬢ちゃんをこのままにしておくわけにはいかねぇな」
「そうだね。とりあえず、あたしの部屋にでも運んで――」
「いや、俺の所で面倒を見るよ。俺が連れて来たんだから、最後まで守ってやらねぇと。そういうわけでエイダ、これ今日の酒代だ。釣りはいらねぇから」
ディランはテーブルに紙幣を置くと、意識を失ったままのアイヴィーを背中に負ぶった。
「あんた、完全にその子にメロメロなんだね。見ているこっちが羨ましくなるわ~」
エイダは恋する乙女のように頬を薔薇色に染めて、微笑ましく見つめてくる。
すると彼女に便乗するように、他の客達も次々とディランを茶化し始めた。
「死神ディラン・エッカートが巨乳好きとは、何だか笑えてくるな」
「ひょっとして、もう下の獣が反応してしまったんじゃないのか?」
「いい加減にしろ、お前ら。そんなんじゃねぇって、さっきから何度も言っているだろう」
ディランは怒気を孕んだ声色で否定するが、誰もが必死になって笑いをこらえるばかりである。
そして店を出る際には、エイダに冷やかされる始末だった。
「ディラン。アイヴィーがあまりにも魅力的でかわいいからって、襲ったりしちゃ駄目よ」
「……お前、明日殺してやるから覚悟しときな」
ディランが射殺すような目で睨みつけると、またしても店内にどっと笑いが起きた。
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