第一章 ~淫魔の初恋~

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 アイヴィーが倒れる寸前で、ディランはその華奢な体を腕に抱きとめた。 「嬢ちゃん。おい、嬢ちゃん。しっかりしろ」  声をかけても返事はなく、規則正しい呼吸の音だけが聞こえてくる。どうやら完全に泥酔してしまったようだ。 「ディラン、アイヴィーの様子は!?」  エイダは血相を変えて駆け寄ってくる。  気付けば他の客達も、ひどく心配した様子でこちらを見ていた。 「酔いつぶれて寝ちまっただけだ」 「そう、ならいいんだけど……」  言葉とは裏腹に、エイダの表情は硬いままである。 「それにしてもこの子、まだ酒には慣れてないみたいだね……。ノンアルのカクテルを出しておくべきだったかな……」 「お前のせいじゃねぇよ。彼女、ろくにメニューを見てなかったし、何より最初にちゃんと確認しなかった俺が悪い」  この店にはノンアルのカクテルはもちろん、ジュースや清涼飲料も置いてある。そのことをアイヴィーに教えてやるべきだったと、ディランは自身の配慮不足を悔やんだ。  カクテルは酒が苦手でも比較的飲みやすいが、だからといってジュース感覚で飲むと急に酔いが回るので注意が必要である。しかもこのフルーツカクテルは、アルコール度数がビールよりも高い。  恐らくアイヴィーも、甘くて美味しいからと油断して飲んだのだろう。 「とりあえず、嬢ちゃんをこのままにしておくわけにはいかねぇな」 「そうだね。とりあえず、あたしの部屋にでも運んで――」 「いや、俺の所で面倒を見るよ。俺が連れて来たんだから、最後まで守ってやらねぇと。そういうわけでエイダ、これ今日の酒代だ。釣りはいらねぇから」  ディランはテーブルに紙幣を置くと、意識を失ったままのアイヴィーを背中に負ぶった。 「あんた、完全にその子にメロメロなんだね。見ているこっちが羨ましくなるわ~」  エイダは恋する乙女のように頬を薔薇色に染めて、微笑ましく見つめてくる。  すると彼女に便乗するように、他の客達も次々とディランを茶化し始めた。 「死神ディラン・エッカートが巨乳好きとは、何だか笑えてくるな」 「ひょっとして、もう下の獣が反応してしまったんじゃないのか?」 「いい加減にしろ、お前ら。そんなんじゃねぇって、さっきから何度も言っているだろう」  ディランは怒気を孕んだ声色で否定するが、誰もが必死になって笑いをこらえるばかりである。  そして店を出る際には、エイダに冷やかされる始末だった。 「ディラン。アイヴィーがあまりにも魅力的でかわいいからって、襲ったりしちゃ駄目よ」 「……お前、明日殺してやるから覚悟しときな」  ディランが射殺すような目で睨みつけると、またしても店内にどっと笑いが起きた。
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