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初めて人間界を訪れた時は、体力や魔力の消耗が激しく立つのも困難だったが、何度も行き来して慣れたのか最近は全く苦にならなくなった。
(早くおじ様に会いたい……!)
先日のように、また適当にあしらわれたらどうしようという不安はある。だが、それを恐れて行動しなければ、運命の相手と結ばれるという夢は夢のまま終わってしまう。
今日の最初の目的はエイダの経営するバーへ行き、そこで働かせてもらう旨を伝えることだ。彼女なら多分、色々と良いアドバイスをくれるに違いない。
「えっと、確かこっちの道だったような……」
あれからリーブスには何度か訪れているが、例のバーに行ったのは初めてディランに会った日だけだ。
わずかな記憶を頼りに、アイヴィーが歩き出そうとした時だった。
「あれ? アイヴィーじゃないの! 会いたかったよ!」
声がした方を振り向くと、買い物帰りらしいエイダが駆け寄ってくるのが見えた。
「エイダさん、ちょうどいいところに。私をあのバーで働かせて下さい」
「本当に働いてくれるの!? ありがとう!」
アイヴィーが働いてくれるのがよほど嬉しいようで、エイダは表情を輝かせて歓喜の声を上げる。
「ただ、私……一度も働いたことがないんです……」
せっかく喜んでくれているエイダに水を差すようで悪いと思いつつも、黙ったままでいるのも良くないと思い正直に打ち明けた。
しかし彼女は大して気にする様子もなく、そればかりか「大丈夫、大丈夫」と笑い飛ばすばかりである。
「仕事なんて覚えればいいだけの話だし、難しいことなんて何にもないから。それに、あの店自体あたしの趣味でやってるようなもんだから、失敗しても怒ったりしないよ」
エイダの言葉で懸念事項が一つ減り、アイヴィーはひとまずホッと胸を撫で下ろした。
「それじゃあ、改めてよろしくね。アイヴィー」
「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」
アイヴィーの表情はいつになく、明るく輝きに満ち溢れていた。
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