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翌朝、舞たちは避難所の小学校を出た。
だいぶ小ぶりになったものの、まだまだ雨はやみそうにない。
ぼんぼん、ぼんっ。
示しあわせたように、三つの傘の花が同時に開く。
「見て。竜がいるみたい」
翼がくるりと傘をまわして、空を指した。
見あげれば、鉛色の空に、細長い雲がたなびいている。
母も空を仰いで言った。
「あら、ほんとう。面白いカタチの雲。
あの竜が、雨を呼んだのかもしれないわね」
「竜が雨を呼ぶの?」
「むかしの人がね、雨がふらなくて困ってたとき、龍神さまにお願いしたんだって。そういう言い伝え」
翼が首を傾けて言った。
「まだ子供の竜なのかもしれないね」
「どういうこと?」
「あの竜が、子供だからさ。
うまく加減ができなくって、きっとこんな大雨になっちゃったんだよ」
母が口を覆って、クスリと笑った。
「ああ、そうね。きっと子供の竜だったんだわ。
あなたたちも元気いっぱいで、まるで加減ってものを知らないものね」
舞と翼は、お互いの顔を見合わせた。
傘からはみ出した肩や腕に、雨が当たってこそばゆい。
「よしっ。家まで競争だあー」
ふいに翼が、傘を投げ出して、走りだした。
「きゃー、待って、お兄ちゃん!」
長靴が水しぶきを跳ね上げる。
「あっ、こらっ。あなたたち」
母が慌てて傘を拾った。
やまない雨が降りしきる中、親子三人が走る水音が道に響く。
(おしまい)
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