雨雲をはしる

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スイスイと廊下を歩く翼のあとに、舞は仕方なくついて行った。 「ここが僕のクラス。三年二組」 ガラガラとドアを開けて、二人は教室の中に入った。 「僕の席は、これ」 並んだ机のひとつに手を置いて、翼は得意そうに白い歯を見せる。 舞も、そっと机に触れてみた。 「座ってみてもいい?」 「うん」 椅子をひいて座り、机に腕を伸ばして頬を乗せる。 なめらかな感触と、木の匂い。 「ねえ、小学校って楽しい?」 たずねると、翼は「そうだなあ」と言って、大人みたいにあごをなでた。 「小学校にはいろんな教室があるんだ。ちょっと探検してみるか?」 「うん!」 「探検」という言葉の響きにわくわくする。 教室を出て、靴下を滑らせて廊下を歩く。 「ここは職員室。なんだ、先生が来てるな……。 あんまりジロジロ見るなよ、舞。何しに来たんだって怒られるぞ」 そっと中の様子をうかがうと、二人の教師が、なにやら難しい顔で立ち話をしている。 「お隣が校長室だ。ここはの部屋だから、フカフカのじゅうたんが敷いてある」 兄は階段をのぼり、突き当りまで進んで足を止めた。 「ここは図書室。本を自由に読めるところ」 ドアノブをガチャガチャまわしてみるが、カギがかかっていて開かない。  「こっちは音楽室」 二人で、小窓から中をのぞいた。 「見えるかな? 壁に、音楽家の肖像画が並んでいるんだ。 ベートーベンが、ここのボス。夜になると、血の涙を流しながら、ピアノを弾くんだ」 「舞ちゃん、もう夜だと思うな」 舞の言葉に、翼は眉をひそめた。 「もっともっと、夜になったらだ。次行くぞ」 兄は、先に立って廊下を歩いていく。 「そうだ。もっとやばい場所があった」 兄が舞を振り返った。 「理科室だ」
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