雨雲をはしる

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二人は小窓に額をくっつけるようにして、理科室の中をのぞいた。 闇の中に、銀色のシンクが並んでいるのが見える。 怪しげな薬品の並んだ棚、白いガイコツ、人体模型――。 「あれは、死んだ人間の骨だ。 あいつらが、夜じゅうダンスパーティーを開いてるっていううわさがある。 闇に浮かんだり消えたりして、クルクルと踊るんだ。 ああ……やっぱりカギがかかってるな」 翼はガタガタと、乱暴にドアを揺らした。 「舞ちゃん、理科室入りたい」 「じゃあそのヘアピン貸して」 舞は髪からヘアピンを抜きとった。 鍵穴の中に、差し込んでガチャガチャやる。 「だめだ。開かないな……」 「つまんないの」 舞は口をとがらせた。 入れないと分かると、どうしても入ってみたくなる。 「わがまま舞」 翼はそう言うと、「あ、そうだ」と手を打った。 「そういえば、職員室に、カギがあった気がする。確か壁に、かかってた」 「カギを手に入れるの?」 「やってみよう」 兄妹は、職員室の前まで逆戻りした。 中には、あいかわらず二人の教師がいるようだ。 見つからないようにドアの前にかがみこんで、翼が声をひそめた。 「舞。お前が行け」 「そんな。いやだよ……」 「いいか? 道に迷いました。体育館はどこですかって聞け。 それで、先生と一緒に体育館に行くんだ。 僕がその隙に、カギを盗みだす」 翼が、瞳をきらめかせた。 「体育館に行ったら、三十数えて、もう一度理科室に来い。 二階だぞ。さっきの場所、覚えてるか?」 「できないよう」 「できるよ。一緒にガイコツパーティー、見ようぜ」 翼が、ばんと舞のおしりをたたいた。
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