雨雲をはしる

6/7
前へ
/7ページ
次へ
「あはは、何やってるんだよ、舞。お前おもしろいなあ」 兄が、目をパチパチさせながら笑った。 「僕はグレープもらうからな」 ひょいと、紫色の液体の袋を奪った。 「ここで食べよう。ガイコツパーティーならぬ、アイスパーティーだ」 理科室のドアにもたれ、袋の端を口でちぎって、翼は袋ごと口にくわえる。 舞もそれを真似て、袋を口に近づけた。 「あ、ああ、ベトベトになっちゃった」 溶けたアイスは、舞の指をつたい、廊下を濡らした。 「ああ、下手くそだなあ」 翼は笑いながら、器用に袋の中身をじゅうじゅう吸った。 雨が、屋根を打つ音が響いてくる。 窓ガラスが、吹きつける風でカタカタと鳴る。 続いてポーンというピアノの音。 「あ、ベートーベン」 「風の音だろ」 兄は、ペロリと指を舐めて立ち上がった。 「お母さんのとこ、戻ってみるか」 「うん」 「今日のこと、お母さんには、秘密だからな」 「うん」 舞も、親指を舐めてみる。 甘ったるいオレンジの味が舌に残った。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加