雨雲をはしる

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雨の音が、絶え間なく続いている。 舞は、アイスキャンディーをなめながら、出張中の父親と、電話口で話をした。 「そっちは雨がすごいだろう」 「うん」 「お母さんに代わってくれるか」 「うん」 アイスを口にくわえたまま、母に子機を手渡した。 テレビでは、せわしなく災害情報を伝えている。 大型の強い台風、各地で予想される土砂災害――。 母が電話を切ったのを見て、舞の兄の翼が言った。 「ねえ、お母さん、もう一本食べていい?」 グレープ、アップル、オレンジ、ソーダ。 どの味にしようかと迷いながら。 「何を言っているの。一本だけに決まっているでしょう」 母の尖った声が、アナウンサーの声に重なった。 「それよりも翼。舞。 すぐに準備しなさい。 お父さんが、避難所に行ったほうがいいって言うの。念のためだけどね」
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