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いや、この悪夢は今朝に始まったものだけではない。カルヴィンは十五歳の頃から決まって同じ悪夢を見続けていた。
――薔薇色に染まった頬をした愛らしい彼女の顔が恐怖で青ざめ、両手足が力なくだらりと垂れ下がり、薄桃色の綺麗なドレスを纏った骸が地面に転がる。その姿が頭にこびり付いて離れない。
自分と同じブロンドに翡翠の目をした彼女、シャーリーンの顔が蒼白し、やがて骨と化したその姿を――。
カルヴィンが唯一、家族と呼べる彼女がこの世を去って九年が経つ。
カルヴィンの家族は、父親と母親。そしてひとつ年上の姉シャーリーンと四人だった。貴族階級は上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵とそれぞれ五段階あるなかで、男爵だ。ゲリー家は表向きは爵位を持っているものの、屋敷の財政はひっ迫していたからメイドを雇うことさえできなかった。
それでも、医師の父親は威厳があり、おおらかでユーモア溢れる人間だったし、母親は街の中では指折り数えるほどの美人で気立てがよく、優しい女性だった。そして姉のシャーリーンは母親に似て美しく気立ての良い娘として育っていった。
カルヴィンは貧しいけれど、この過酷な世の中を力強く生き抜いていく家族が大好きだったし、ゲリー家に生まれたことを誇りにさえ思っていた。
けれども幸福は長く続かない。
カルヴィンが十一歳の時、両親は流行病コレラにかかり、命を堕としてしまったのだ。母親はわずか二十七歳、父親は三十歳という若さでこの世を去った。
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