2 いやいや、そんなキャラじゃなかったよね?

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白兵衛の暖簾をくぐると、中はそこそこ賑わっている。 カウンターをちらりと見た後、テーブル席にも目を向ける。 春斗らしい人物は見当たらない。店を言い間違えたのだろうか? 電話しようかと携帯を探していると、カウンターから声が聞こえた。 「ここ、ここにいるじゃん。よく見てよお」 「え」 カウンターに座っている男が手を振ってきた。椅子から降りて私の荷物を受け取ると、自分の隣の席の荷物置きに仕舞った。訳が分からないまま席に案内され、生ビールとお通しを渡され、勝手に乾杯された。 ここまでされてやっと思考が働きだした。 「いやいや、誰?!」 「やだぁ、仲良かったのに忘れちゃったの。堂島春斗でーす」 「違う、私の知っている春斗は全然違う!」 だって隣の男をマジマジ見ても、面影がない。 あんたぽっちゃりしてたよね?って確認したくなるくらい腰細くてスタイル良いし、 髪も流行りっぽい、なんか美容師とかがしてるような髪型だし。 香水なのか分かんないけどすっごく良い匂いが身体からしてるし… 眉毛もカットしてるのか凄く整っている。 なんなら肌もキメ細やかで羨まし…って違う、それより気になるのは。 「そんなに見つめられると照れちゃうわよー♪」 「その口調、そのメイク!」 「うん?」 「春斗…あんたオネェになったの?!」 ナチュラルメイクよりスッピンに近い私より、ずっと綺麗に化粧をしている。 チークもリップカラーも私より余程女子力が高い。 春斗らしい?その人は溜息を吐いて見せると、やれやれと言った。 本気で呆れてるっぽい顔が若干腹立つ。あ、この顔は見覚えあったわ。 間違いなく堂島春斗だ。 「オネェって括りはどうかと思うけど。自分に似合うお洒落を追及した結果よ。…それにしてもあかりちゃんが変わってなくて安心したわー。お店入ってきて一発であかりちゃんだって分かったもの」 春斗の言葉に折角忘れていた宮田君の事を思い出す。 あ、泣けてきた。 「ちょ、どうしたのあかりちゃん?!」 「ぐす…春斗、今夜は帰さないからね…」 「え…」 「私が推しに好かれるように、美容を教えて!」 春斗の胸元を掴んでぐらぐら揺らしながら、私は一気にビールを喉に流し込んだ。何よ春斗ももうグラス空いてるじゃない。 「店長、ビール二つおかわり!!」 はいよっと気持ちの良い返事を聞きながら、春斗の綺麗な化粧顔を酒の肴にして…私は会社の推しの話を春斗にした。夜はまだまだ長い。
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