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5 あなたが言うなら何でも良い
呑み倒れ 白兵衛で、今度は私が春斗を待っていた。
悪いけど。景気づけに先に日本酒を一合空けさせてもらってる。
店に来る前まで泣いてたから、目頭が熱くて痛い。明日は腫れそうだ。
店の入り口が開いて、春斗がこちらへ向かってきた。
宮田くんにご飯に誘われたって報告までは、電話でしてある。
隣に座ると同時に、私は春斗の方へ向き直った。
「あかりちゃん、目どうしたのよ?!」
慌てたように春斗が冷たいおしぼりを瞼にそっと当てがってくれる。
あぁ、優しい。春斗のちょっとした行動に涙腺が緩みそうになる。
「…今日、推しに、宮田君に綺麗になったって…すごく綺麗になったって言ってもらえた!」
「…うん、良かったね。あかりちゃん頑張ってたもの、当然よ」
春斗は優しい。私の呼吸に合わせるように、ゆっくり言葉を繋いでくれる。
店主が気を聞かせて春斗の前に置いたビール。
その白い泡は徐々に消えていく。
「ご飯だって誘われたんだよ、ずっと見てただけの王子様に!」
「うん、楽しみじゃない。どこに連れてってくれるかしらね」
春斗がずっと何でもないように話すから悔しくて。
こんな気持ちなのって、もしかして私だけなのかな。
それでもこのままじゃ気持ちが収まらない。だって私は元々推しがいなきゃ生きていけないんだから。
「宮田君の誘いは断った」
「え…何で」
「宮田君とお洒落なレストラン行くより、私は春斗と居酒屋で過ごしたいって思った。ずっと応援して、綺麗になる努力を教えてくれた春斗と一緒に居たいって思った。これからも流行りのメイクとかお洒落を、隣で教えて欲しいって思った」
春斗は一瞬だけ息を飲んだ後、ふにゃっと溶けるように笑顔を見せた。
「気付くのおせーよ。俺はあかりちゃんずっと綺麗だと思ってるから、最近綺麗になったね。なんて言ってやらないから」
久々に聞いた春斗の男言葉にドキドキしながら固まっていると、
いつの間にか頼んだらしい新しいジョッキが二つ届いた。
冷えたビールで乾杯する。
私達には高級フレンチよりこっちがお似合いだと、顔を見合わせて笑った。
明日はきっと、瞼は腫れない。
美容の師匠…最推しの彼氏が、私の隣に居てくれるから。
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