トキメキ!えがしゅん

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トキメキ!えがしゅん

「はぁぁぁ…」 大きなため息をしながら、彼女は今夜も電車に悲壮感を漂わせながら着座している。 項垂れた顔を上げて、車窓を覗きこむと冴えない顔が、彼女を馬鹿にするようにニヤついている。 帰宅して、薄暗い玄関に入ると鏡がある。しかし、長いことそこに彼女が映し出されることはなかった。その佇まいは彼女の心の闇を投影してるかのような。 「前はもっと、笑えてたのかな?」 社会の荒波に揉まれた服を脱ぎ捨て、適当に洗濯機を回し、適当な格好でベッドに寝転ぶ。 スマホを片手に大した目的もなく、ネット情報を散策する毎日…。 「はぁ、なんだか疲れちゃった…。」 シャワーを浴びて、冷蔵庫に買いだめてあるヨーグルトを食べ、歯磨きをする。 洗濯機は停止したが、そのまま放置。 電気を消し、テレビの音量を最小にし、ベッドにうずくまる。 「アラーム…セット。おやすみ…」 _____ 「にぱぁぁぁ」 小さく身体を小刻みに動かしながら、彼女は今夜も電車に、ランラン気分で威風堂々と着座している。 シャカリキ顔を上げて、車窓を覗きこむと爽やかさ溢れる顔が、彼女にお疲れ様とニコッと笑いかけてくれる。 帰宅してもその明るさは消えない。鏡に向かって、ただいまからの髪の毛くるんっテヘペロが日常。彼女の輝きが乱反射してすこぶる眩しい。 「今日も私は絶好調!からのぉ…ニコッ!」 会社のデスクワークでシワになった服を鼻歌交じりに脱いで、足の指先でつまんで洗濯機にポイっ!洗濯機のスイッチも軽快なバランス感覚で足の指で押し、少々過激な下着姿でベッドに寝転ぶ。 スマホをがっちりと握り、俊敏な指さばきでコミュニケーションアプリの友達からのメッセージに返信。 「さぁ…癒しの時間かな!」 湯船にゆっくりと浸かり、足を伸ばす。お風呂から上がってくると、冷蔵庫に買いだめてある缶ビールをプシャ!しながら、野菜炒めを作りながら、炊飯器起動。 食べ終わったら、片付け、歯磨き忘れない。 洗濯機を止め、室内に干す。 電気を消す…前に、 顔に彼女専用…魔法のクリームを塗り込んで、丁寧に丁寧にのばしていく。 「スマイル…セット!おやすみ!!私!」 _____ 会社へ出社する何気無い?朝の日常…。 「おはよう!」 と彼女は肩をポンと先輩に叩かれる。 「なんか、最近、キレイになった?笑ってる顔がやっぱ一番だよ!」 彼女はその瞬間… 「えっ…うへへぇ」 人目も気にせず、トロけてしまいそう笑みを披露してしまう。 彼女の「えがしゅん」は明日もずっと続くだろう。 【終】
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