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「みちお君、今日は流れ星どころか、星すら見れないよ」
夜空には厚い雲が広がっている。
「さっちゃん、もうちょっとだけ待って。
ここは、星が良く見える隠れスポットなんだ。
そして、ここで流れ星をみたカップルは幸せになれるって伝説があるんだって。さっちゃんの誕生日にどうしても一緒に見たくて。」
男は、空を見ながらきょろきょろしている。
「みちお君ったら…ありがとう。私の来てみたかったホテルに連れてきてくれただけでうれしいよ。
それに、流れ星が見えなくてもわたしはみちお君と一緒に入れれば……。」
「さっちゃん…。ぼ、ぼくは…。」
その時、夜空に流れ星が流れた。
「みちお君みえた?」
「さっちゃん、見えたよ!やった!!やっぱりぼくらは…」
男は女の前でひざまずいた。
「ぼくは、やっと決意したよ。田中幸子さん、結婚してください。」
「え!!私でいいの…?よろしくお願いします。」泣きながらうなずいた。
それから二人は手を取り合い、寄り添い空を見ている。
「はぁー。あほらしい。」
茂みの中から望遠鏡で見ていたぼくは、大あくびした。
そう都合よく流れ星なんて流れるわけはない。
ぼくの仕事は、流れ星を指定の空に降らせることだ。
もちろん魔法で…なんてことではない。
ドローンを改造し高速で動くようにし、そこに遠隔でライトをつける。
それからタイミングを見てライトを光らせドローンを飛ばすのだ。
普通の流れ星は早すぎて気づかないことも考慮し、見やすいスピードで飛ばすというお客様への細やかな配慮も人気の秘訣だ。
値段は安くはないが、このサービスを始めてから予約が絶えない。
サービス終了時には、お客様が流れ星を確認した連絡を受け取り終了する。
これは、万が一流れ星を見逃した場合に再度流すためだ。
携帯の音が鳴った。
「終了の合図かな?
それにしても、このお客様は準備万端というか、したたかだな。」
ぼくはメールを確認した。
『ご担当者様。
流れ星の件、確認いたしました。
ご対応ありがとうございました。
田中幸子』
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