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あの日約束した二人きりの観測会は、翌月に見ることの出来る、ふたご座流星群だった。
彼は、とっておきの場所を知っているんだと、私を展望台に連れて来てくれた。
更に寒さの増した十二月の遊歩道を、二人で何も語らずに歩く。
ポツポツと照らすフットライトが頼りなく、沈黙に不安になる。
だけど、前を歩く彼の背中は確かにそこにあり、たまに後ろを振り向く彼の横顔に、私の心は早鐘のようにドクンドクンと音を立てた。
この静けさでは、きっと彼に聴こえてしまうだろうと思えば思う程、私の心は高く鳴った。
とても長い時間歩いたような気がしたけれど、たぶんそんなに時間は経っていないだろう。
辿り着いた展望台から望む町の灯りを見下ろすと、想像していたよりも遥かに綺麗で、それはまるで星空の様に見えた。
「うわぁ、綺麗…」
思わず溢れる言葉に、隣の彼が私の手をそっと握り微笑んだ。
そして手を繋いだまま、何も語らずに、暫く眼下の星空を二人で見下ろした。
繋がった手から伝わる温度が暖かく、とても満ち足りた時間に思えた。
それから彼は、大きめのリュックからレジャーシートと寝袋を取り出し「寒いでしょ」と、温かいコーヒーを、あの日みたいに差し出した。
そして、恥ずかし気もなく「これからずっと、俺の隣にいて欲しい」と言ったのだ。
いつも物憂げで、感情を出さない無口な彼の、意外と大胆な告白に、彼と言う人がいったいどんな人なんだろうと、無性に好奇心を掻き立てられて、ずっと隣にいたいって思ってしまった。
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