流れ星と願い

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
星が降る。 白銀の月が姿を隠す今夜。 夜空に輝く満天の星たちが願いをのせる。 『流れ星』 「おばあちゃん、星が降ってるよ」 二階のベランダから明るい声が響く。 「今夜は星の雨だね」 声に誘われて玄関から外にでた祖母。 夜空を見上げれば幾千の輝きが空に消えている。 カオス(混沌)より変わらぬ光。 「ねえ、お父さんも見てるかな?」 女の子がこの地を旅立った父を想う。 家族のために頑張っている父、数えるほどしか帰ってこない父。 「祈ってみるかい?」 視線を女の子に合わせる。 明るく元気な顔がわずかに曇る。 「流れ星はね、願いを叶えるんじゃないよ」 悲しみの色を含む言葉。 女の子はベランダに両腕をのせ、その上に顔をのせた。 幼き頃から星に願いをこめていた可愛い孫の姿をずっと見守ってきた。 『お母さんが早く帰ってきますように……』 医者となり、治安の不安定な土地に出向いていた母。 そして、暴動に巻き込まれ命を落とした。 月日は流れ、時も流れた。 そして……星たちも悠久のときのなかで流れ続けた。 願いは叶えられることなく。 「……おばあちゃん」 小さな声がした。 「なんだい?」 「流れ星は、願いが叶ったから流れるんだよ」 泣きそうなほど細い声だった。 星にかけた願いが叶ったときに星は流れる。 だから、流れ星は願いをのせない。 女の子は苦笑をみせた。 バカだよあんたは…… こんなに可愛い子供を置き去りにして。 あたしゃあ、あの子に同じ道は歩ませないよ。 確かに多くの人を救えるかもしれないよ。医者なんだからね。 いいかい、家族(娘)を救えない医者が他人を救うなんてこと、あたしゃあ認めないんだよ。 たった一人の大切な娘を悲しませることしかできない知識なら、捨てたほうがいいね。 一夜限りの星降る夜。 叶った願いは流れ星となり、夜空に消える。 「こんなに降ってるんだ、一つくらい願いは届くさ」 祖母は女の子と同じ夜空を見上げた。 一瞬、困惑の表情をした女の子だが、すぐにいつもの明るさを取り戻した。 「うん、星が降る夜だもんね」 そういうと女の子は、両手を合わせて星に願いをかける。 「お父さんもお母さんも同じ星を見てますように……」 小さな願いかもしれない……けれども、その願いは簡単でいて難しい。 幾千の星たちが降り注ぐ静かな夜。 願いは流れ星となり、叶えられる。 無限の流れのなかで変わらぬ輝きを続けるだろう星に願いを…… 『流れ星となるそのときまで』 ジリリリ…… 夜更けに電話が音を響かせる。 受話器の向こうからは変わらぬ声が届いた。 「外に出て空を見てごらん」 「お父さん、星がねすごくたくさん降ってるんだよ」 頬をつたう涙がまるで流れ星のように輝く。 一つ星が流れた。 願いは流れ星にかわる。 『願わくば、この子に光の未来を……』 星に願いを……           おわり
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!