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一旦それぞれの部屋に引き上げてから僕たちはリビングで待ち合わせをした。
「ケイト、僕もね、人見知り結構しちゃうんだ。だから気持ちわかるよ」
多分僕が不安そうな顔をしていたんだろう、小虎ちゃんは僕の顔をのぞき込み、優しく笑って手を繋いでくれた。
「でもね、僕お兄ちゃんがいるんだけど、寡黙で男らしくて。僕も見習わなくちゃって思うんだ、だから高校生になった機会に、僕少しずつでも変わろうと思って」
小虎ちゃんの笑顔が眩しかった。僕には変わろうとする勇気はない。ただ誰の目にもとまらないことを祈って、何でもなく生きたい。
「…小虎ちゃん、すごいね」
「そんなことないよ、そんな、なんか面と向かって言われたら恥ずかしいよ」
でも僕もとりあえず、せっかくいい友達ができたから、一緒に食堂でご飯を食べれるように頑張ろう。楽しく過ごそうなんて身の程知らずな望みは持たないからせめて一緒に過ごせたらいいな。
食堂へやってきて改めて、中等部との違いを目の当たりにした。
そこにいるのはもうみんな大人みたいで、全然世界が違った。
「あ、やーん、小虎ー」
小虎ちゃんを呼ぶ声に思わず僕がびくっとして体を硬くした。
「リンちゃん」
「来るってわかってたけど、もう高校生なんだねー」
小虎ちゃんの近くに来たなんだかいい匂いのする人は、なんていうか、すごく美人だった。もちろんここは男子校だから美人って表現はちょっと妙かもしれないけど、髪が長くて色が白くて。
「お友達? 竜もあっちいるよ。とりあえず一緒に座ろう? 他に約束なかったら」
リンちゃんって呼ばれた人が優しく言って指差したテーブルはなんだか結構みんなの目を引く人たちが座っていた。
「あゆもねー小虎に会うの楽しみにしてるの」
「ケイト、いい?」
僕は俯いてしまい再び顔を上げることが出来なかった。明らかに場違いな自分が痛々しくて、泣きそうになった。
「ご、ごめ…、おなか、いたい……」
僕はやっと絞り出すように出した声でそういうと一目散に今入ってきた扉に向かった。
やっぱり僕はダメ、変われない。
夢中で部屋まで駆け出して途中何回か躓いて、誰かがそれを見てくすくす笑っているような気がして仕方なかった。
とにかく、早く逃げ出したかった。あんなにキラキラした所に僕は不釣り合いだ。
ほら結局お前は変われないじゃないか。友達なんてできると思ってんの? 身の程知れよ。
頭の隅で誰かの意地悪な声が響く。僕は泣きながらベッドに潜り込んだ。
「ケイト…」
ベッドに潜り込んで泣いていると、近くで小虎ちゃんの声が聞こえた。
目を擦ってそっと布団から顔をだした。部屋は真っ暗で、開いているドアから光が少し入っている程度だった。
「ごめんね、無理に連れて行って」
「ううん…小虎ちゃんが悪いんじゃないよ。僕が…」
「二人ともー、ご飯持ってきたよ。今日は部屋で食べなよ」
さっきのリンさんの声が聞こえて慌ててまた顔を拭った。
こんな顔を人に見せたくなかったけど、わざわざご飯を持ってきてくれたみたいで申し訳なくて、小虎ちゃんとリビングに行くと背の高い黒髪の人が黙ってテーブルに持っていた食事のトレイを置いてくれた。
「恐かったんだねー、人がたくさんいて。初日だもん、無理して食堂で食べることないよ」
リンさんが僕の肩を抱き寄せて頭を優しく撫でたので僕は思わずびっくりして顔を上げた。
目の前のリンさんの顔が本当に綺麗でまたびっくりした。
「あはは。ごめんねー。びっくりしたね、怯えないで。やだ、この子よく見るとすごく可愛いー」
リンさんが僕の顔を覗き込んだ後、さらにぎゅうぎゅうと抱きしめた。
僕がなにがなんだかわからなくてオロオロしてると背の高い人がリンさんをぐいっと掴んで引き離した。
「え? いつもの悪い癖? うるさいなぁ、竜は。ごめんね、冷めないうちに食べて二人とも。あ、今更だけど僕は二年のリンちゃんです。こっちのでかいのは小虎のお兄ちゃんの竜だよ」
君は? って感じでリンさんに微笑まれ、またモゴモゴと口ごもってしまった。
「立花、慧都です。あの、食事、ありがとうございます」
「タチバナケイト? あれ? どっかで…ま、いいや。じゃあゆっくり食べてね。また明日行けそうなら一緒に食堂で食べよう」
リンさんと竜さんが部屋から出て行って小虎ちゃんとダイニングのテーブルに座った。
改めて小虎ちゃんをよく見ると、少しくせのある重めの黒髪に伏せ目がちな目に睫毛がいっぱいで、唇がぽってりとしていてすごく可愛かった。
こういう子なら自信持って人見知りなんかも解消できるんだろうな。
「リンちゃんにびっくりした? すごく優しい人なんだよ。実は男らしいし」
小虎ちゃんはすごく優しい顔で笑った。きっととても仲良しなんだろうな。
「もう一人は僕のお兄ちゃんだよ」
小虎ちゃんは、今度は照れくさそうに笑った。
「すごくかっこいい人だったね……そういえば小虎ちゃんと似てるね。いいなぁ…」
僕も少しでもお兄ちゃんに似ていたらよかったのに。
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