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しょーちゃん、磯貝家へ駆ける
「濱辺」の判子が既に押された回覧板を片手に、獣道を駆ける少女が一人。肌に触れる草の葉には、気にも留めず、無我夢中に走り回っている。
自宅から数km先の目的地に到着した少女は、四隅の欠けた磯貝の表札が掲げられた家に入る。古い石造りの玄関を抜け、縁側に出た。
そして、すうっと息を吸い込み、少女は声を張り上げた。
「かいらんばんでーす!」
襖が開き、白髪の老婆が顔を出す。
「しょーちゃん。待ってたよ」
少女を出迎えた老婆は、朗らかに笑う。
少女から回覧板を受け取った老婆は、プラスチックの表紙を開き、藁半紙に印刷された情報に目を通す。概ね自分が既に見聞きした情報ばかりだった為、詳しく読み込む必要は無かった。
最終ページにまとめられた観覧者の確認を行う表を開く。日付を記入し、磯貝の欄に朱肉の内蔵された簡易的な印鑑を押した。濱辺と磯貝の印が縦に並ぶ。朱色のインクを乾かす間に、老婆は少女に向かう。
「今日は何をしようか」
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